
■連載/ヒット商品開発秘話
特定保健用食品(トクホ)といえば、血糖値や血中コレステロール、血圧などに対する機能を有しているものがイメージされる。しかし現在、肌の水分を逃しにくくする機能が確認されたトクホが好評だ。オルビスの『オルビス ディフェンセラ』のことである。
2019年1月1日に発売された『オルビス ディフェンセラ』は、肌への機能の科学的根拠や有効性・安全性について消費者庁の審査を受け認められた日本初のトクホ。肌の水分を逃しにくくするため肌の乾燥が気になる人に適している、という肌への機能が確認されている。発売と同時に予想以上の勢いで売れ、9月末時点で約68万個販売し、約20億円を売り上げている。
インナーケアで肌の悩みに対応する
商品企画部商品企画Ⅱグループの杉本豊明氏によれば、『オルビス ディフェンセラ』は研究開発に6年、国の審査を通過するのに4年と、誕生までに実に10年を要した。
開発のきっかけは、肌の悩みで多い乾燥肌への対応には、これまでと異なるアプローチが必要だと痛感したこと。杉本氏は次のように話す。
「肌の乾燥で悩む多くの女性を見てきて、主力の化粧品のように体の外側からケアするのとは別のアプローチが必要ではないかと感じていました。そのとき注目したのが、当社が創業当時から大切にしてきた体の内側から肌の力を高めていくインナーケア。しっかりした機能を持ち、お客様に正々堂々と機能が謳えるものを実現するべく、プロジェクトが立ち上がりました」
プロジェクトでは最初から、トクホで発売することを決めていた。その理由は、機能をストレートに訴えることができるものをつくりたかったことと、効果と安全性の両面で国のお墨付きを得て消費者に信頼してもらいたいからであった。
オルビス
商品企画部商品企画Ⅱグループ 杉本豊明氏
肌のバリア機能をつくるグルコシルセラミド
カギとなる成分には、米胚芽由来のグルコシルセラミドを用いることにした。グルコシルセラミドは以前から、肌の潤いに関与することはわかっていたものの、効果に至るプロセスや食品に利用したときの安全性の解明が不十分であった。杉本氏はこう言う。
「トクホとして認めてもらうには、口から摂取して体内でどう分解・吸収される、どこに届く、どのように作用する、といった最終的な効果に至るまでのプロセスの解明が不可欠。食品ですから、絶対的な安全性の証明も必要です。これらを細かいところまで行なう必要性がありました」
グルコシルセラミドが肌の水分を逃しにくくするのは、紫外線など外部からの刺激から肌を守るバリア機能をつくるためのスイッチを入れるからであった。しかも、3か所のスイッチを入れるという。
まずスイッチを入れるのは表皮細胞。細胞と細胞の間のすき間を塞ぐ、表皮顆粒層にあるタイトジャンクションの発現を促進する。
次にスイッチを入れるのは角層細胞。細胞と細胞の間すき間を塞ぐ、セラミド合成酵素の発現を促進する。
最後にスイッチを入れるのは最外壁。角層細胞外壁の形成を促進する。
グルコシルセラミドが作用し、肌の水分を逃しにくくするために肌のバリア機能を高めるまで
ただ、グルコシルセラミドを1回につきどの程度摂取する、どれくらいの期間摂取すればいいのか、といった設定が悩ましかった。容量を変えて何度も検証を実施。最終的には、1回につき1.8mg摂取できるようにした。被験者に3か月間摂取してもらい効果を検証したところ、摂取開始から1か月で効果が出始め、その後も摂取を継続すると改善が進むことが確認できたという。
グルコシルセラミドは、純度が重要なポイントになった。『オルビス ディフェンセラ』ではグルコシルセラミドに、玄米1tからたった2g程度しか採れない高純度の「DF-セラミド」を使用。「肌にとって本当に必要なものだけを摂れるようにしたかったので純度にこだわりました」と杉本氏は言う。
そして、満を持して審査に臨む。合格したのは、申請から4年後の2018年半ば。あまりにも時間がかかりすぎた。
これほどまで時間がかかったのは、これまでなかったトクホのために審査が慎重に行なわれたからであった。「重箱の隅をつつくような指摘を何度も受けました」と杉本氏。「飲用をやめた場合、肌の状態は元に戻ってしまうのか?」というような指摘も受けた。
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