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「ひねくれていても、生きていける社会こそ健全」芥川賞作家・上田岳弘氏インタビュー

2019.11.21

 芥川賞を受賞した小説『ニムロッド』はビットコインやブロックチェーンをモチーフにした作品だ。その作者の上田岳弘は、自らをひねくれ者と明言する。マジョリティになりきれないひねくれ者を、どれだけ許容できるかが、社会の自由さを測るものさしではないか、と考えているようだ。

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 社長からの業務命令で仮想通貨のマイニングを行なう新規事業の責任者となった主人公・中本哲史(なかもと・さとし)が、ドライではないけれど節度ある距離感の恋人や、元同僚とのやり取りなどで物語が展開していく『ニムロッド』。学生時代から小説を書き始め、スタートアップの起業にも関わりながら作家活動を続けてきた上田岳弘は、同作品で第160回 芥川龍之介賞を受賞し、世間に大きく知られることになったが、それを機にブロックチェーンや仮想通貨界隈でもちょっとした有名人になったとか。

ニムロッド』講談社刊 1650円

 そもそも、上田氏にとってブロックチェーンや仮想通貨を作品のモチーフにしたのは、どういう背景があったのか。それは言葉が単なる記号の組み合わせにも関わらず、意味を持ち、その記号によって人々の感情はおろか、生き方にまで影響を及ぼすことと、単なる情報でしかないのに価値がある仮想通貨がどこか似ていると感じたからだという。

「小説も突き詰めればコードなんですよ。言葉を解さない人には、例えばひらがなって、わけがわからない。これが字であること、日本語であること、ひらがなであることの認識がないと単なるインクの汚れです。こういったコードが脳にアクセスをし、その人に価値を与え、何かを理解させる。それらが、いわゆる共同幻想というか、なんとなくみんなが共有する文化みたいなものになる。法の精神が生まれ、そこから革命が起こるみたいな、そういう流れになるくらいに文章は力を持っている。それなのに、ものとしての形もなく、単なる記号に過ぎない。それは、ソースコードのようなものに過ぎない。そこが仮想通貨とある意味似ているかな、と思っていたんです」

 さらに上田氏はものとしての手触りもなく、形すらないものに何かを感じ、行動にまで影響を及ぼすことに人間らしさを感じるという。

「形がないものに力を与えることができるのって、人間だけじゃないですか。そこが人間性の担保というか、動物とは違った部分だと思います。作家として興味がある方向としては、その辺ですね」

 そして、インターネットやブロックチェーンなどの技術の影響もあり、社会が分散化していることについて、ポジティブに受け止めている。

「いまの会社には立ち上げからずっと関わっていて、もう16年目です。設立した2000年代の最初に比べると、すごい自由になりましたよね。あの頃は、夏でも上着を来ていた人が珍しくなかったし、ネクタイを締めている人も多かった。いまは服装も自由になったし、夏にネクタイをしないのが当たり前になったので、冬にネクタイをしてなくても、あまり文句を言われなくなった。

 おそらく選択肢が増えているので、会社を移ることは以前と比べて容易だし、フリーで生きていく方法も増えてきた。その自由さが広がって、対国家、対権力として機能していると思うんです。その自由さを担保したり、助けているのが、いまの技術という面はあるので、本当にこの時代に生まれてよかったな、自由になってよかったなと思います」

 自由であること。これは上田氏がインタビューのなかで繰り返した、彼が最も大事にする価値観のような印象を受けた。

ひねくれ者を排除せず、大事にできるかが社会の健全さのバロメーター

 上田氏の話で印象に残ったのは、社会の中のひねくれ者という存在についてだ。上田自身がひねくれ者であり、そういうひねくれ者が次にどう動くかに関心があるという。

「ひねくれ者って、必ずある程度の割合でいますから、次のひねくれが何かは関心があるんです、僕自身がひねくれ者ですから。

 僕はオープンなSNSをほとんど使わないんですが、たまに見ると、みんなイライラしてるんだなぁ、と感じるんです。そうして突き放して見えちゃうところが、ひねくれているからと思います。

 ただ、ひねくれていても生きていける自由さは大事と思います。例えば、(旧ソ連や北朝鮮のような)共産主義の国でひねくれていたら、生きていけないと思うんです。どこまで、ひねくれものを生かしてくれるのかみたいな、ギリの線を感知したいですね。こんなにめちゃくちゃひねくれているのに、生かしてくれてありがとうって」

 少し補足をすると、小説家のようなひねくれ者をきちんと許容する寛容さを持ち合わせた社会が大事ということだろうか。で、あるならば、上田にはもっときちんとひねくれてもらうことが、社会の健全さを測るものさしになるのかもしれない。

 話は変わるが、このインタビューを行なってからしばらく後、米Googleが英科学誌『ネイチャー』に「量子超越」の実験に成功したことが書かれた論文が掲載されたことをリリースした。従来のスーパーコンピューターと比較して、はるかに短時間で計算処理が行なえることが特徴で、「コンピューターの開発史において1903年のライト兄弟の有人初飛行に匹敵する意味を持つ」というコメントをGoogleの研究者が述べたことなどが伝えられ、今後20~30年後には実用化されるとの報道もある。

 量子コンピューターのように従来のコンピューターを遙かに凌ぐ計算処理が行なえるシステムが登場すると、現在の暗号などが解読される恐れがあることから、このニュースが出るとビットコインは大幅に価格が下がった。それ以上に印象的だったのは、Googleの研究者が、コンピューターの進化と飛行機の開発とを類比的に捉えていること。『ニムロッド』では、ストーリーの展開とは異なるところで、通奏低音のように「駄目な飛行機コレクション」が、元同僚で“ニムロッド”を名乗る荷室さんから送られてくる。

<ねぇ、中本さん、僕は思うんだけれど、駄目な飛行機があったからこそ、駄目じゃない飛行機が今あるんだね。でも、もし、駄目な飛行機が造られるまでもなく、駄目じゃない飛行機が作られたのだとしたら、彼らは必要なかったことになるのかな?>(『ニムロッド』)

 すでに作品を読んだ方も、いまの量子コンピューターを巡るフィーバーを踏まえて再読してみてはいかがだろう? もしかしたら、上田は、研究者たちが、こうした類比を使うことを知っていたのだろうか? 

 ひねくれ者はきちんと大切にするべきだ。改めて、そんなことが頭を過った。

上田岳弘氏
1979年、兵庫県生れ。早稲田大学法学部卒業。2013年、「太陽」で新潮新人賞を受賞しデビュー。2015年、『私の恋人』で三島由紀夫賞を受賞。2016年、「GRANTA」誌のBest of Young Japanese Novelistsに選出。2018年、『塔と重力』で芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。2019年『ニムロッド』で第160回 芥川賞を受賞する。

文/編集部 写真/干川 修

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