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デジタルありきの時代、日本の企業はどう生き抜くべきか?「アフターデジタル」著者・藤井保文氏に聞いてみた

2019.11.05

中国IT大手のアリババが展開するニューリテール戦略は、オンラインとオフラインを融合して小売店の新たなユーザー体験を作り出すもの。中国では実際に、電子マネーが現金と同じようにどこでも使える一方で、店舗での購買行動もデータ化されて新たなカスタマーサービスに活用されている。オフラインもオンラインも飛び越えて、すべてがデジタル化される時代。デジタルありきのビジネスが当たり前になる時代が、もうすぐ日本にもやってくる。著書『アフターデジタル』でそう警鐘を鳴らす、株式会社ビービット 東アジア営業責任者の藤井保文氏を取材した。

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――『アフターデジタル』では、これからの時代は「デジタルありき」でビジネスを考えるべきと説いています。藤井さんがそういう考えに至ったきっかけを教えてください。

僕は今、中国に拠点を置いています。日本から視察にくる企業の経営陣をアテンドしていると、日本の企業と中国の企業では、立脚点が全く違うと感じることが多いんです。ある時、日本の保険会社の人が「保険に関わるサービスを呼び出せる車載デバイスを作っています」という説明をしたら、中国の保険会社の人が「日本のモノ作りはすごいですね。でも中国の人口は14億人。その全員にデバイスを配れますか?」と返したんです。「私たちならモバイルで、それができないかを考えます」と。変化がとてつもなく早い中で、いちいちモノを作っていたら簡単にアップデートができないという考え方なんですよね。それにすごく衝撃を受けて、僕自身もそういった視点で物事を見るようになったというのは大きいかなと思います。

――藤井さんは現地で、ものすごいスピードでデジタル化する中国を感じられていると思います。しかし、日本にはそれが断片的にしか伝わってきていません。なぜでしょうか?

実は、つい最近も友達が中国に遊びに来たんですが、そのときは僕が仕事で案内ができなかったんですね。帰国後に「中国どうだった?」って聞いたら、「荒々しい新興国のダイナミズムを感じた」っていうんです。友達はWeChatもAliPayも知らない。一方で中国に来たら、LINEもFacebookもGoogleマップも規制されて使えなくなって、確かに経済はものすごく発展しているけど、なんて不便なんだ!と思ったようです。きっと多くの日本人観光客が同じように感じているんだと思います。今や中国の都市部では、オンラインでもオフラインでも電子決済が当たり前で、スマートフォンからいろいろなサービスが利用できる。例えば、ご飯を食べたいならスマートフォンからデリバリーできるし、電車やバス、タクシー、シェアサイクルやバイクなど、移動手段もスマートフォンですべて手続きできる。生活者の感覚でいえば、ご飯を食べるにも移動するにも、割り勘をするにも、もちろん人とコミュニケーションにも、全部一回デジタルが挟まる感じ。それくらいデジタルが当たり前になっている。ただそれは、実際に中国に住んでいる人が案内しないとわからないですよね。外側だけ見ているとわからないけど、1枚めくると裏側にとてつもなく便利で豊かな最先端のデジタルワールドが広がっているというのが、今の中国です。

中国と同じことが日本にも起こるわけではないが、学べることは多い

――中国の決済は最近、もう一歩進んで顔認証だけで決済ができるようになってきていますよね。「でも、それって中国だからできることじゃないの?」という声もあると思うのですが、本当に日本にも同じようなデジタルの時代が来るのでしょうか?

僕ももちろん、中国で起こっていることのすべてが、すぐに日本でも起こるとは考えていません。例えば今、中国ではWeChatPayのテンセントとAliPayのアリババが、ユーザーの購買データを握って強い力を持っています。でも、日本ではそんな極端なヒエラルキーは生まれないでしょう。日本の電子決済はそもそもプラットフォーマーの数が多いし、そこから繋がるビジネスについても、あまりアセットとして持ちきれていないというのがその理由です。中国ではテンセントやアリババが、自身のプラットフォームを使う企業にどんどん投資をしている。決済アプリにつないで入り口を作ってあげれば、ユーザーは自然にサービスに流れる。そういうインセンティブがいろいろあって、その力がどんどん大きくなっている印象ですが、同じことは日本ではたぶん起きないでしょう。

国民性として中国の人が個人情報を使われることに抵抗がないかと言ったら、日本と比べたら少ないだろうとは思います。情報を国に握られることは、ある程度は仕方ないと思ってる。ただそのことと、企業が個人情報をどう使うかとことはまったく別の話です。

例えば、営業マンが電話かけてきて、あなたこの間、コレとコレを買いましたよね?と言われると気持ち悪いと思う。それは中国人も日本人と同じです。結局はその情報をちゃんとベネフィットとか、良い体験にして返せているかが重要なのです。その点は中国の先進企業もとても気をつけてやっている。今みたいな電話は絶対にしません。データを握られることへの心理的な抵抗は日本より少ないかもしれないけど、ちゃんと1つ1つの企業が、データを使ったらユーザーの体験やベネフィットに返さなければいけないと思っているし、それに対して中国の人はそういう風にしてくれるならデータを差し出しても良いという状況になっているということです。これは日本の企業も学ぶべきところが多いと思います。

――個人情報の提供も自分の生活が豊かになるのならいい。そこはちゃんとトレードオフになっているということですよね? 中国企業がユーザー体験にとても気を遣っているのは、やはりそれだけ競争が厳しいこともあるのでしょうか?

それは絶対にあると思います。例えば、シェアリング自転車ってあるじゃないですか。中国で急速に広まったサービスですが、一番多いときで70社くらいまで会社ができたと聞いています。厳しい競争の中でプロモーション合戦をやって互いに疲弊して、今ではほんの数社しか残っていません。14億人という人たちに使ってもらうためには、とにかく簡単に使えるとか、体験上のベネフィットが必要なんです。プロモーション合戦は良くない例ですが、それだけ厳しい環境の中で、いかにUX上のベネフィットがあるかはすごく重要だと思います。便利であるとか、楽しいとか、すぐ使えるとか、体験としてそういうジャーニーが作られているというところには、学ばなければいけないことがすごくたくさんあると思います。

日本の企業がデジタル化で目指すべき価値とは?

――厳しい競争環境の中で、中国の企業は様々な分野でどんどん力をつけてきています。日本の企業はどう対抗していけばいいのか。デジタルありきのビジネスが当たり前になる時代に、日本の企業は独自の強みは持てるのでしょうか?

中国はもともとできなかったり、不便だったりという“ペイン”が多い状況だったから、痛みから自由になるとか、負から解放される便利さを提供することで、一気に市場が拡大したところがあると思います。では、日本はどうかというと、そもそもそんなに不便がない状態ですよね。何でもそこそこに便利だし、誰もが自分らしい生き方を選べる。『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』や『ニュータイプの時代』などの著書で知られる山口周さんの言葉を借りれば、日本の企業は負を解消してくれる“役に立つ”というレイヤーではなく、より自分らしい生活のための“意味のある”レイヤーでテクノロジーを活用する方向性に進むべきなんじゃないかと思います。もちろん、役に立つことは大切ですがそれだけではなく、テクノロジーをもう一段上のところで活用することができるんじゃないでしょうか

前にあるアーティストの人が言っていたのが、日本人にはそれぞれいろんな文化を吸収しながら、自分らしい世界観を持っている人が多いということ。中国人はまだ経済的に豊かになるため、給料を2倍にするために突き進んでいる感じですけど、日本人はもう給料が2倍になることなんて想像できないし、経済的に豊かになるという方向性とは違う形で、多様な生活の仕方や文化の楽しみ方をしているということだと思います。そういう中で何ができるのかということですよね。テクノロジーというのはあくまでも基盤で、AIもブロックチェーンも5GもIoTも基盤でしかない。テクノロジーを導入することよりもその上にどういう世界観を作るかが大事で、日本の企業ならもっと豊かで世界に誇れる世界観を作れるはずです。

ひとつ例をあげると、『アフターデジタル』の中で、私の体験として「元々はスターバックスを使っていたけど、最近はオンラインで注文&決済して、デリバリーもしてくれる新興のラッキンコーヒーに乗り換えた」という話を書いているんですが、実は今は再びスターバックス派に戻っているんです。なぜかというとこの本を書いたあと、スターバックスがアリババ系のデリバリーサービスと提携したんですね。通常のデリバリーって、配達員は効率よく回るために複数の案件を掛け持ちするんですが、スターバックスは1対1で届ける。早いから温かくて美味しいんですよ。

スターバックスはずっとサードプレイス、つまり自宅でも職場でもない第3の心地よい場所を提供するということを言ってきた。だけど中国のユーザーはデリバリーが便利だとなってきたわけです。ユーザーの生活がアフターデジタル側にいっちゃってたのに、スタバはビフォアーデジタル側の思想に固執していたということですよね。そこでアフターデジタル的な社会におけるサードプレイスと何か、もしスターバックスがデリバリーやるならどういう形なのかを考えたのだと思います。1対1なので、デリバリーコストが高く値段も1.5倍くらいするんですが、持ってくると配達員が足と手を揃えておじぎして渡してくれる。体験がほかのデリバリーとは全然違う。店舗の品質を届けるという考え方なので、そこまでこだわっているんでしょう。

これはまさに先ほどの日本の企業がアフターデジタルな時代をどう戦うかという話と同じですよね。自分たちの提供価値をしっかりデジタルで捉え返して世界観を作り上げれば、テクノロジーを自分たちらしい形で活用することができるはずなんです。僕もこれからもっと、そういう企業の支援をしたいと思っています。

藤井保文氏
株式会社ビービット 東アジア責任者
1984年生まれ。東京大学大学院学際情報学府情報学環修士課程修了。2011年、ビービットにコンサルタントとして入社し、金融、教育、ECなどさまざまな企業のデジタルUX改善を支援。 2014年に台北支社、2017年から上海支社に勤務し、現在は現地の日系クライアントに対し、モノ指向企業からエクスペリエンス指向企業への変革を支援する「エクスペリエンス・デザイン・コンサルティング」を行なっている。著書に『平安保険グループの衝撃―顧客志向NPS経営のベストプラクティス』を監修、『アフターデジタル』(尾原和啓氏との共著)。「書籍アフターデジタルの更に先の最新情報や解釈を発信する自社セミナー「AFTER DIGITALCAMP」を、著者本人が月に一回実施中。

取材・文/太田百合子 撮影/末安善之

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