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「ビジネスパーソンはAIの時代だからこそ、本気で学びについて考えよ」経済学者・野口悠紀雄氏

2019.10.23

ブロックチェーン技術が社会を大きく変えようとしているなかで、ビジネスパースンは、どんな備えをしておくべきか。大蔵省(旧財務省)を退官後、精力的な執筆活動を始めた野口悠紀雄氏は、いかにして個人の生産性を向上させるか、という問いに向き合い続けてきた。それが『「超」整理法』に始まる一連の著作だ。働き方改革を先取りしてきたともいえる野口氏の超シリーズの最新作を紹介しつつ、ビジネスパースンへの心構えを語っていただいた。

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 経済学者の野口悠紀雄氏は、ブロックチェーン技術の本質を、組織を信じるか、(ブロックチェーンという)しくみを信じるかである、と解説する。国や大企業などの組織ではなく、ブロックチェーン技術のしくみがを信用の裏付けとしたシステムを構築できるようになるため、人が介在することで起こる不正や不公平などを劇的に軽減することができるようなり、社会が大きく変わる可能性を秘めているというわけだ。そのインパクトは、歴史の教科書を書き換えるほどという。たとえば、ブロックチェーン技術を用いたFacebookの「Libra」が実用化されるか否かが、米中の貿易戦争の帰趨を左右するそうだ(参考記事)。

 このように、社会が大きく変化しようとしているなかで、ビジネスパースンは、どんな備えをしておくべきだろうか。

 実は、この問いについて、野口氏は、約30年間も向き合ってきている。その成果は、インターネットの草創期の1993年に著された『「超」整理法』から、始まる“超シリーズ”で触れることができる。『「超」整理法』は、情報が爆発的に増え始めた時期に、「整理は無駄である。一箇所にためておき、検索せよ」と説き、『続「超」整理法・時間編』(1995)、『「超」整理法3』(1999)の3部作で一区切りとなる。ちなみに『「超」整理法』は、中公新書ではトップクラスのベストセラーで、あまたあるライフハック本のネタ元として、古典的な存在となっている。その後野口氏は、Googleに代表されるインターネット・サービスの充実や、スマホの登場などにフィットした仕事術を次々と提案し続け、その最新刊は、『AI時代の「超」発想法』(PHP研究所)。同書は、noteにおいてもサポートページが用意されるなど、個人の生産性に関心を持つ読者のために、さまざまな方法が用意されている。

 それでも、若い読者のなかには、『「超」整理法』のブームをご存じない方も少なくないかもしれないので、少し略歴もご紹介しておきたい。

 野口氏は、東京大学工学部の応用物理学部を卒業し、1964年(昭和39)に大蔵省(現財務省)に入省。1968年にカリフォルニア大学ロサンゼルス校で経済学修士号、1972年にイェール大学で経済学博士号を取得し、帰国後は文部省(現文部科学省)、埼玉大学、一橋大学、東京大学に出向して退官。その後、青山大学や一橋大学などで教鞭を執る傍ら、執筆活動に入り、前述の『「超」整理法』を上梓する。

 さて、少し脇道にそれてしまったが、ブロックチェーン技術などが社会を大きく変えようとしているなかで、ビジネスパースンは、どんな備えをしておくべきなのか。「AIで作れないような価値を生み出せるようなスキルやクリエイティビティを身につけるには、何が必要ですか?」と野口氏に問うと、間髪入れずに「勉強するしかありません」という答えが返ってきた。

イノベーションや発明は、創造的剽窃から始まる

 では、どんな勉強をするべきか。

 野口氏は、『AI時代の「超」発想法』で、指摘されてみれば非常に常識的なことを数多く紹介している。たとえば、同書の「第2章 どうすればアイデアを生み出せるか」では、次のように説く。

数学の問題を解くとき最も普通に用いられる方法(そして最も強力な方法)は、「この問題は、これまで解いた問題のどれと同じタイプのものか?」と考え、それに当てはめることです。

 学校の数学についてこの方法が正しいことは、明らかです。どんな問題も、基本形の変形か、複数の基本形の組み合わせに還元できます。ですから、どのパタンに当てはめればよいかが分かれば、解けます。

 少なくとも、試験問題は、この方法ですべて解けます。考えてみれば、当たり前のことです。一時間や二時間という限られた試験時間内に、全く独創的な方法を生み出すことを求められているはずはないのです。

 中学受験の算数の問題は、専門の数学者が見ても厄介なものです。しかし、受験生はスラスラ解いています。これを見ると大人は驚きますが、小学生が解けるのは、問題のパタンを覚えていて、当てはめるからです。全く独自に解法を編み出しているわけではないのです。

 したがって、数学の成績を上げるための最も確実な方法は、「数学は独創」という思い込みをやめることです。そして、「数学は定型的パタンの当てはめ」「その意味で、暗記」と割り切ってしまうことです。このような発想の転換ができれば、数学の成績は間違いなく向上します。逆にいうと、「自分が編み出した方法で解かねばならない」とこだわっている限り、数学の成績は良くなりません。>(同書、P.079)

 ちまたでは、脳を鍛える~、集中力を高める~、科学的に証明された~、などなど、さまざまな勉強法や仕事術が紹介されているが、野口氏は、「創造的に模倣せよ」という。

「(文部科学省が掲げている)主体的な学びや、アクティブ・ラーニングなんて、ありえないんですよ。勉強っていうのは、これまでやられてきたことを、学ぶこと。なので、私は独自に算数の方法を発見しましたなんて、ありえないのです。例えば、分数の掛け算っていうのはどうするかにはルールがあり、それを覚えて、速くできるっていうのが学校の“勉強”なんです。

 つまり、勉強っていうのは詰め込みなんです。誰かが“新しいブロックチェーンを発明しました”というのはいいけれど、その前に、今のブロックチェーンとは何か? を理解することのほうが、遥かに重要。先人に学べということは、物理学者がいままで口が酸っぱくなるほど言ってきたことです。物理学は決して新しい理論を生み出したんじゃない、模倣から出発したんだ、と。

 創造的な仕事は、模倣から出発し、創造的に剽窃し、それを少し変える。これが、新しい発見というのは、多くの物理学者が言っていることです」

 野口氏は前掲書でローレンス・クラウスの「今世紀における(物理学の)重要な革命のほとんどは、古いアイディアを捨てることによってではなく、なんとかそれと折り合おうとした結果得られたものだ」という言葉を引用しながら、話を進めていく。20世紀の大発見であるアルベルト・アインシュタインの相対性理論が、それまでの物理学をできるだけ維持する立場から、等速運動する観測者の間で物理法則は同一というガリレオ・ガリレイの相対性原理と、どの観測者にとっても電磁波の伝播速度は同一というジェームス・クラーク・マクスウェルの理論を両立させるには、時間や距離のほうが変化するという考えを持ち出さなければならなかったことを紹介。そのうえで、ローレンス・クラウスは、「古いアイディアを剽窃して何にでも使ってみよ」「新しい問題をすでに解決済みの問題に焼き直せ」という言葉に見られる姿勢を、勉強や発想にも活かしてくべきと提案する。

 よって、社会が大きく変化するなかで、ビジネスパースンは、ブロックチェーンやAIについて、きちんと基礎的なことを学ぶべきであることを、語気を強めて話す。さらに、もう一歩踏み込んで、その基礎になる部分の勉強を聞くと、間髪入れずに「読み、書き、そろばんですよ」という答えが返ってきた。もちろん、算数からやり直せということではないだろうが、高校程度の数学や物理などの勉強は学び直せということだろう。

 そのうえで、いまの高等教育が諸外国に著しく立ち遅れている状況では、有力がスタートアップが出てこないのも当然という。

「いまコンピュータ・サイエンスで世界一はどこだと思いますか? それは、清華大学です。日本は、東京大学です。ただし、世界で何位かご存じでしょうか。はるかに下のレベルです。(編集部注:出典元

 清華大学がなぜ強いかといえば、文化大革命で、それまでの学校制度が崩壊し、アメリカから帰って来て新しいことを始めた人たちが、作り上げてきた。だから、最先端なんです。日本では、教授がやっていることと同じことをやっていないと、大学に残れないですから。コンピュータ・サイエンスで新しいことをやっても、大学には残れない。

 日本は、文化大革命に似たことを先の戦争後に経験した。だからソニーやホンダが出てきた。韓国ではアジア通貨危機以後に新しく出直して、急成長した。

 日本はすでに中国にGDPで抜かれていますが、このまま放置しておくと、2040年には一人あたりのGDPでも追いつかれる。それから後は、中国のほうが豊かな国になる。だから、日本で職に溢れた人は、中国に出稼ぎをすることになりますよ。遠い歴史を振り返ると、遣唐使や遣隋使を送り、そこで学んだことを日本で広めた。それが歴史の正常な姿と見ることもできます。この300年くらいが、それまでの歴史と少し違った、と。それが正常な姿という風にならないように、学び続けることが大切なのではないでしょうか」

 ブロックチェーン技術で、社会が大きく変わっていくなかで、ビジネスパースンが生き残っていくためには、本気で学びについて考えよ、と野口氏は、警鐘を乱打している。

野口悠紀雄氏

1940年東京生まれ。東京大学工学部卒業後、大蔵省入省。1972年エール大学Ph.D.取得。現在、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問。一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。積極的な著述活動でもよく知られ『財政危機の構造』(東洋経済新報社、1980)でサントリー学芸賞、『情報の経済理論』(東洋経済新報社、1986)で日経・経済図書文化賞)、『バブルの経済学』(日本経済新聞社 、1992)で吉野作造賞、『ブロックチェーン革命』(日本経済新聞出版社、2017)で大川出版賞を受賞するなど、その評価は高い。個人の生産性の最大化を目指した『「超」整理法』(中央新書、1993)のシリーズは、インターネットやスマホが普及したいまこそ、再評価されるべき古典。noteのページでも、その一端に触れることができる

取材・文/編集部 撮影/篠田麦也

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