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格差をも飛び越える若者のエネルギーは必見!スラム街生まれの青年がラップでデビューするインドの実話映画「ガリーボーイ」

2019.10.18

「格差は映画の中だけでも、インドだけのものでもない。それは私たちの現実」。それは、アクタル監督の厳しく優しいまなざしでひもとかれる

コンテストの楽曲を作るMCシェール(左)とムラド(右)

この映画で伝えたいことを聞くと、アクタル監督は「格差がある社会でも夢を持つこと」と目を大きく見開いて答えた。

「巨大な人口を抱えるインドでは、経済的に恵まれない立場の人々がいるのが現実」。その立場の人々が住む「ダラヴィは一般とは異なるコミュニティでマイノリティな故、恵まれていない。その状況では教育の機会も十分でないため、就ける仕事は限られてしまう連鎖のしくみ」があり、格差は無くならない。

「社会の格差を伝えるために、数え切れないほどある多様なインドの物語から一つを選び、とことん表現したのが今回の映画。実際にインドにはLGBTといった性的趣向、宗教、政治の信念など様々なマイノリティが存在している。それらはインドに限らず世界共通だ」。彼女は、社会に潜むあらゆる格差に対して想いを馳せている。

「この映画の物語を通じて、主人公が何を考え、どのような行動を起こしたかを見て欲しい。そして格差やそこからくる束縛が潜む現実で何をすべきか、何ができるのかをみなさんに問いかけたかった」

ウィル・スミスも絶賛。難しいテーマに人々を惹きつけた映画の魅力、そして実社会へもたらした影響とは

本作では主人公だけでなく登場人物の日常も詳しく描かれ、制限、抑圧を打ち破って人々が変わっていく生き様を見せてくれる。あのウィル・スミスに「正真正銘のヒップホップがある」と言わせた所以はここにあるのではないか。

象徴的なのは、ダラヴィの住人やラッパー達が参加する大勢でのラップシーン。それまで暗がりだったダラヴィが、人々の表情やそこにある空気まで変えるほど活き活きと明るい場所に見えてくる。エネルギーがみなぎるこの雰囲気は、インドの都市で見られる前のめりの若者達のそれと重なる。

ダラヴィでのラップシーン

このシーンだけでなく映画全般のリアル感とエンタテイメントの魅力を高めているのは、監督の経験と感性が導いた「本物の音楽」だ。米国のヒップホップ界で著名なラッパーのNAS(ナズ)を映画製作プロデューサーとして巻き込んだだけではない。「実際に歌われているインド発の魂の叫びのごときラップを取り入れ、さらにインド全土で活躍するミュージシャン54名を取りまとめてオリジナルの楽曲を採用した」ことに監督は自信を持っていた。劇中で使用されたオリジナルの24曲は、日本でもiTunes、GooglePlay, sporify 等で配信中だ。


『Appa Time Aayega』 俺の時代は来てる、と歌う劇中の楽曲のひとつ。映画のシーンを使ったミュージックビデオ。

さらに、現在のインドのナショナリズム的風潮や政治的腐敗に対する辛辣な言葉が、映画のラップシーンに挟み込まれている。また、アクタル監督の父親でもある詩人のジャーヴェード・アクタルの現代詩をラップに仕立てている場面がある。これはインド古代からの抒情詩『ラーマーヤナ』や『マハーバーラタ』の語り聞かせを引き継ぎ、インド文化を象徴しているという。

インドの大都市だけでなく各地で、ストリートのラッパー達はミュージシャンとして注目され始めた。地元のクラブなど様々なイベントで、その土地の文化や言語を活かしたラップが広がっている。「映画や広告で彼らの音楽が使われることもある。デリーやベンガルール(バンガロール)のヒップホップシーンは特にすごい勢いだ」と監督も認めている。

若い世代が「格差」やそこからくる制約から自分を解き放つ勇気と術を持った時には、大きくインドが変わるのだろう。「『ガリーボーイ』は、若者への応援歌ですか」と問うと彼女は微笑んだ。

若者は隔たりを飛び越える。そして、分断された社会をつなぐことはできるのか。

ゾーヤー・アクタル監督は、ダラヴィのあるインドの大都市ムンバイで暮らしている(東京にて筆者撮影)

本作の注目は2つある。ひとつは、この映画に出てくる「格差」は「社会のしくみ」から派生した事ととらえていること。特定の人物やコミュニティへの非難はないが、しくみを簡単に変えることもできない。一方で自分にまつわる格差であれば自身でその隔たりを乗り越えていけることを、主人公の成長過程を通じて示している。

もう一点は、社会や人との「隔たり」の問題に立ち向かう主人公の辛い側面だけを強調していないこと。ガールフレンド、米国の音楽専門学校で学んだプロデューサー、母親、そしてダラヴィのコミュニティやラップ仲間という同志たちとのつながりや応援と共に物語が進む。インド社会を俯瞰して客観的に捉えつつ、人間の温かみを捉えている。

監督自身のスタンスにも隔たりは一切ない。例えば今後の映画製作については、こう語った。「人はだれもが根本は同じ。感情を持っているのが、人間というもの。出自が異なっても、カルチャーはじめその人の背景を理解すれば人同士は通じ合えるわ」と前置きし、「だからこそ、世界中のどこでもだれとでも映画は作れるし、作ってみたい」

「隔たり」は今や世界の共通課題だ。人々の生まれや信条の違いで区別され、分断や対立が際立ってきた。そのような時代に、隔たりを持たない感覚こそアクタル監督から私たちが学べることだろう。

若者は、大人が作った隔たりを打破するきっかけを作ってくれる。その時には、彼らに耳を傾けて一緒に未来を考えてみたい。いや、そもそも人生100年時代には若者の部類に入る私たちは、「近頃の若者は・・・」と言える立場ではない。社会のしくみも隔たりもたやすく乗り越えて、分断されたコミュニティや社会をつなぐことができる世代なのかもしれない。


『DOORI』と題する劇中の楽曲のミュージックビデオ。人同士の隔たりを連想させるシーンが連なる。

『ガリーボーイ』は、10月18日(金)新宿ピカデリー他にて全国ロードショー!
http://gullyboy.jp/

取材・文/望月奈津子
日欧米のグローバル企業でマーケティングや広報に一貫して携わる中、10年間勤めたP&Gのインド人上司の影響で、日印の共創をミッションとするムーンリンク社を設立。インドを30回以上訪問して築いた信頼やビジネスネットワークと現地家庭の訪問や滞在での洞察を活かし、リサーチ、視察、研修等で企業をサポートしている。

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