
未完成な人は、魅力的だ。あるべき自分の姿をめざして努力し、もがき、時には壁にぶつかって挫折し、そこからまた立ち上がる。人が完成形に近付いていく過程は、凸凹して、紆余曲折があって、ドラマチックで、感動する。
未完成な工業製品は、魅力的と言えるだろうか? ほとんどの場合、ノーだ。映りの悪いテレビ、冷えない冷蔵庫、暖かくならないコタツ、遅いパソコン……。彼ら/彼女らがどんなに頑張っていたとしても、そこにドラマや感動を見出すことは難しい。せいぜいイライラして買い替えるぐらいだ。
ところが、である。ことバイクに関して言えば、未完成なほど魅力的ということがあり得る。しかも、十分に。ピーキーなエンジンやクセのあるハンドリングは乗りこなしの楽しさをもたらしてくれるし、ヘンテコなデザインは他にない個性と受け止められる。「バイクは人間に近い乗り物」とよく言われるが、未完成さに魅力があるという点も、実によく似ている。
誤解を恐れず言ってしまえば、そのことを具体的に分かりやすく教えてくれているのが、ハーレーダビッドソンのバイクたちだと僕は思っている。「未完成」というと語弊があるが、ハーレーのバイクには間違いなくスキがある。スキだらけ、と言ってもいい。それが計算尽くであえて作られた意図的なスキなのか、アメリカンの鷹揚さが生み出す天然のスキなのかは分からないが、いずれにしてもそこが大いにライダーを惹きつける。
鼓動と言えば聞こえはいいが、大排気量Vツインエンジンはズダダダンダンと全身を揺さぶる。ボディの迫力に比例して車重があるので、ブレーキングは早めに掛けた方がいい。バンク角は決して深くないので、旋回には気を使う……。
工業製品としてのバイクは、振動をなくし、制動性能や旋回性能を高めることを是としてきた。だがハーレーは堂々とその真逆を行きながら、独自の魅力を振りまき、熱烈なファンを惹きつけて止まないのだ。