
着々と建設工事が進むリニア中央新幹線、東京〜名古屋区間。最速列車では両都市間を約40分で結ぶとあって、社会や暮らしをどう変えるのか、注目が集まっている。リニア開業後の展望を早稲田大学の入山章栄教授に聞いた。
※1…リニア中央新幹線の中間駅名は仮称。
※2…記載の人口数は2017年総務省住民基本台帳による。
東京〜名古屋最速40分が起こすインパクト
リニア中央新幹線の東京〜名古屋区間は8年後、2027年の開業を目指している。8年という時間が長いか短いか、感じ方は人それぞれだが、具体的な数字が掲げられたことで、夢物語ではなく現実的な未来図を描きやすくなったのは間違いないだろう。果たして開業により、私たちの生活にどのような変化があるのか。
「インターネットの普及により、あらゆる情報が容易に手に入るようになったことで、誰にでも手に入るような情報の価値は下がっています。価値があるのは実際に人に会うことで得られるインフォーマルな情報であり、それがビジネスを左右し、イノベーションを生むのです。次世代の通信技術が普及しても移動して対面で人と会う価値は変わらないはずです。
ただ、40分ほどで両都市間の移動が可能になると、ビジネスは東京への一極集中が、さらに加速すると思います。世界的にもビジネスは大都市への集積が進んでいます。交通インフラの整備により大きな都市に資本が吸い寄せられる『ストロー現象』が起き、他の都市から人とビジネスが今以上に東京に集まるようになるでしょう」
そう語るのは早稲田大学の入山章栄教授。都市間の移動が容易になることは、ビジネスにおいて大きなメリットがあるが、同時に一極集中のリスクもあるという。
一方で、人々の暮らしにおいてはリニアが大きなメリットと変化をもたらすと続ける。
「複数拠点生活が広がると思っています。住まいは軽井沢や鎌倉で、仕事は東京という方もすでに増えつつあります。5Gのスタートと通信技術の進歩によりリモートワークもしやすくなっていくはず。リニアを利用すれば平日は東京で働き、週末は自然豊かな地域、例えば飛騨や高山で生活するというのも難しくはなくなります。途中駅が設けられる山梨、長野も同様です。地方では人口減少に伴って空家が増え、土地の価格も下がっているので、セカンドハウスを購入しやすくなっています」
近年、ワークライフバランスに関する論議も盛んなことからも、リニアが開業すれば複数拠点生活というスタイルが現在より浸透してもおかしくはなさそうだ。週の数日を地方で過ごすのか、日々通勤するのかは人それぞれだが、〝職〟の集中と〝住〟の分散が起こる可能性は高いだろう。