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ブロックチェーンを活かすのは国家か、それを超える個人か。貨幣論の泰斗と、若きスタートアップのキーマンが語らう【PR】

2019.05.29PR

[プロフィール]
左・岩井克人(いわい・かつひと)
1969年東京大学経済学部卒、72年マサチューセッツ工科大学(MIT)Ph.D.取得。73年エール大学助教授、79年エール大学コウルズ経済研究所上級研究員、81年東京大学助教授、88年ペンシルベニア大学客員教授・プリンストン大学客員准教授、89年東京大学教授、2010年定年退職。現在、国際基督教大学客員教授、東京財団名誉研究員、東京大学名誉教授。主な著書に『Disequilibrium Dynamics(不均衡動学)』(日経・経済図書文化賞特賞)、『貨幣論』(サントリー学芸賞)など多数。

右・桂城漢大(かつらぎ・くにひろ)
IFA 取締役COO。大学在学時にビットコインの可能性に触れ、調査・研究に没頭。海外短期留学などを経験後、DLT(分散型台帳技術)を開発する企業のコンサルティングをしていた水倉仁志(現IFA社 CEO)と出会い、意気投合。「AIre」のビジネス開発部門の責任者を務める23歳の若きビジネスパースン。

80年代にはポスト構造主義の現代思想を基盤にしたニュー・アカデミズムの旗手のひとりとして注目され、90年代には『貨幣論』(ちくま学芸文庫)において、資本主義では当たり前過ぎて自明となっている「貨幣とは何か?」という古くて新しい根本問題を理論化した岩井克人氏。ブロックチェーン技術を利用した暗号資産が注目され始めてから再び注目されている理論経済学の泰斗である。実は、自らも電子貨幣についての論文も発表したという岩井氏の研究室を、ブロックチェーンを活用した次世代銀行「AIre」構想を掲げるIFA社COOの桂城漢大氏が訪ね、ブロックチェーンが抱える根本問題、あるべき銀行の姿などについて語り合った。

貨幣とは、信用の無限連鎖を生み出すもの
予言されていたビットコインの停滞

岩井貨幣論以前は「貨幣とは?」という問い対して、「貨幣商品説」と「貨幣法制説」が有力な学説とされていたが、岩井氏は、そのどちらも退け、次のように整理する。

<貨幣とは、モノとしてはほとんど何の使いみちを持たない金属のかけらや紙切れや電子信号にすぎません。私がその金属片や紙や電子信号を百円や千円や一万円として受け取るのは、それ自体をモノとして使うためでなく、他の人が百円や千円や一万円として受け取ってくれるからです。そして、その他の人も、私から金属片や紙切れや電子信号を喜んで受け取るのは、それ自体を使うためでなく、さらに他の人がそれを百円や千円や一万円として受け取ってくれるからです。

 すなわち、貨幣とは、一つの部屋からもう一つの部屋へ次々に移動させられていく無限ホテルのお客と同じように、一人の人間からもう一人の人間へと次々に受け渡されていく無限世界のお客なのです>(『経済学の宇宙』(日本経済新聞出版社、2015))

 無限ホテルとは、岩井氏が小学校時代に読んだジョージ・ガモフの『1,2,3…無限大』に登場する無限の部屋を持つ宿泊施設のこと。この無限ホテルは、無限にある客室が満室でも、1号室の客を2号室へ、2号室の客を3号室へと順序立てて無限に移動してもらえば、新しい客が来ても部屋が空いて泊まることができるという不思議を持っている。この話に着想を得て、自分のみならず他人が百円、千円、一万円という価値で受け取ってくれて、受け取った相手も、別の相手、さらに別の相手と交換してくれる価値があると信じられて、それを多くの人々が受け入れて流通すると、それが循環論法のように繰り返されて「予想の無限の連鎖」を起こすものが貨幣である、という結論に行き着く。

 この岩井貨幣論から見ると、ブロックチェーンを基本技術とした暗号資産であるビットコインは、いくつかの理由で停滞する必然性が予言されていた。

ビットコインが投機資産になったことは
貨幣としては自殺行為だった

「そもそも貨幣は、モノとして使う価値が、交換する価値を下回っていなければ流通しません。仮に私が手にしている1ドラクマの金貨が、黄金の首飾りにしたら2ドラクマの価値をもつとしましょう。その時、私はこの金貨を、1ドラクマの価値しかないモノとしか交換できない貨幣として使うような馬鹿なことはしません。溶かして、2ドラクマの価値ある首飾りにしてしまいます。人々が貨幣を貨幣として他人に手渡すのは、そのモノとしての価値が貨幣としての価値を必ず下回っているからなのです。おカネは天下の回りものにならなければ、おカネになれないのです。しかし、ビットコインは、キプロス島での危機、その後の高騰で、投機対象になってしまった。人々が、1単位が1万ドルのビットコインが一月後に2万ドルに値上がりすると予想している時、投機物としてビットコインの価値は2万ドルであり、貨幣としての1万ドルの価値を上回ってしまい、いま述べた基本定理を破ることになる。つまり、値上がりを期待して、人々はビットコインを貯め込み、貨幣として使おうとはしません」

 皮肉なことに、ビットコインは投機資産として人気が出たことが、貨幣としては自殺行為となった、と岩井氏は言う。そしてビットコインの現状については、桂城氏も「もう、前のポジションには戻らない」と考え、岩井氏の見方に共感する。

「貨幣というのは地道なものなのです。価値が安定して、ほかの人も貨幣として受け取り、貨幣として使うという安心感がないと、流通しません」と岩井氏は繰り返し強調する。ビットコインに限らず、今後似たような仕組みが熱狂とともに出てきたときに、本物か否かを見極めるときの参考になるはずだ。

アカロフが「レモンの原理」で指摘した問題を
ブロックチェーンのビジネスは解決できるのか

 では、ビットコインのしくみを支えるブロックチェーンは、どうか? これについても岩井氏は、決して楽観的な立場に立たない。

「確かにブロックチェーンは、技術的には面白い。過去のすべての取引をハッシュ値にして市場参加者が共有し、新たな取引に不正がないかのチェックもすべて参加者同士の自己利益を求める競争に任せることによって、ジョージ・オーウェルの『1984』で描かれるビッグブラザーを市場から排除しようという仕組みです。ただ、改ざんされないというナカモト・サトシの定理は確率平均的にしか証明されていない。従来とは次元の異なる計算能力を持つ、たとえば量子コンピュータを誰かが密かに開発し、突如、すべてのハッシュタグを書き換えてしまうことも原理的に可能です。

 だが、それよりも根源的な課題があります。

 ブロックチェーンは、ビッグブラザーへの代わりに、アルゴリズムを信用して、純粋に分権的な市場を可能にしようとする仕組みなのですが、それは市場を市場として成立させる「信用」の本質を理解していないと感じています。つまり、私がもっとも尊敬している経済学者のジョージ・アカロフが1970年に発表した『レモンの市場』(邦訳は、『ある理論経済学者のお話の本』(ハーベスト社に収録))という論文で指摘されている問題を解決していない。」

 アカロフの「レモンの市場」論文は、中古車市場を例にして、売り手はレモン(悪い中古車の比喩)であるか否かを知っているが、買い手はそれについて十分に把握できないような情報の格差がある非対称的な市場では、質の悪い商品しか市場に出回らなくなる「逆選択」が起き、市場メカニズムは機能せず、最終的には存在さえしなくなる可能性を示したものです。市場が市場として成立するためには、商品の品質を買い手が「信用」できなければならない。そして、その「信用」の仕組みとして、売り手自身が正直であるという評判や信頼されるブランド名を確立したり、業界団体や政府が規格によって品質保証をする制度を作ったり、さらに不正が発覚したときに被害者に賠償させる司法制度が存在するのだというのです。

 ところが、ブロックチェーンは、このような従来型の「信用」の仕組みを、ビッグブラザーの一種とみなして拒否し、アルゴリズムに対する「信用」に置き換えようとしている。確かにそれは、取引の中間的なところに介在する人間の判断やコストを極限状態まで減らすことができるため、新しいビジネスモデルの可能性を拓くかもしれない。しかし、たとえばブロックチェーンを有機農産物の保証に使うとしても、農家が本当に有機栽培をしているのか、スーパーが保証されている野菜を実際に売っているのか? 川上(原料の仕入れ、製造の前過程など)や川下(消費者との接点、購入後のアフターケアなど)には必ず人間が介在し、そこにアカロフのレモン問題が集中的に、しかも大規模に現れる。ビットコインではまさに取引所がハッカーに集中的に狙われたように、アルゴリズムへの盲目的な信用は市場を逆に不安定にしかねず、従来型の「信用」の仕組みがやはり不可欠だ、と岩井氏は考えるのである。

ブロックチェーンを活用するのは
全体主義国家か、国家を超える個人か

 こうした岩井氏の話を受けたうえで、桂城氏は、次のように反駁する。

「ブロックチェーンを、そのまま今の時代に応用しようとしたらギャップがあるのは、その通りです。私たちもブロックチェーンの可能性についてアピールはしていますが、万能とは思っていませんし、メインフォーカスではありません。ただし、インターネットが生まれたときのような熱狂があるのは事実ですし、この動きに関わるなかで、新しいことを生み出していきたい。たとえば、量子コンピュータのような計算能力を持つシステムが出てきたら崩れる可能性もありますが、その能力を活用した暗号技術を作ったり、ハッシュ計算をすることもできる。ここの議論は平行線ですね」

 これに対して岩井氏は、仮にブロックチェーンが技術的な課題をクリアしたとしても、それを誰が使うのか、という点が最大の疑問であると別の角度から警鐘を鳴らす。それは国家がブロックチェーンを監視のツールに使うのではないか、という指摘である。

「ブロックチェーンの推進者はナカモト・サトシさんを含めて、徹底的な個人主義者ですが、それは全体主義的な監視国家にとって最も効率よく国民を監視する可能性も与えるという逆説があります。個人には改ざんできない形で、過去の取引記録を全部保持する分散型台帳であるがゆえに、ちょっと工夫すれば、ミシェル・フーコーが『監獄の誕生 ― 監視と処罰』で指摘したパノプティコン(全展望型の監視システム)を容易に作れます。いや、民主主義を標榜している国々ですら、それを実践しつつあるかもしれないのです」

 これについて、桂城氏は、次のような持論を持つ。

「確かに国家は、そうしたことをやりかねません。ですがその一方で、自分はロマンを感じているところもあって、ブロックチェーンというのは、国家のシステムから離脱して、人々の理想を追求することもできるのではないか、と思うのです。

 とはいえ、国家レベルの恐怖感があることは事実です。ブロックチェーンというワードを知っている人は、そろそろ考えたほうがいいテーマなのかな、っていうのは、同意です」

 今回の取材は、岩井氏の研究室がある国際基督教大学のキャンパス内で行われた。緑豊かなキャンパスを歩きながら桂城氏は、レモン市場の論文の話を引き合いにして、「AIre」構想において、「AIre VOICE」というコミュニティを先行させたことは間違いでなかったことを再認識できたと語った。

「人が何かしようと思ったとき、まず知ることから始めると思うんですけれど、きちんとした正しい情報がなければ、そもそも本当のことが伝わらない。岩井先生のお話を聞いて、自分たちが「AIre VOICE」でやりたいことは、岩井先生がしてくれたような本当の話を多くの人に伝えたうえで、皆さん、どうしますか? ということ。今回は、いい勉強になりました」

 また、「技術には完璧なものはなく、それをどう使うかという人間のほうが肝心」ということも桂城氏も再確認したとか。ビジネスの荒波に身を置く23歳の若者だが、少し学生のときの気分を味わい、充電が出来た取材だったようだ。

取材・文/編集部 撮影/篠田麦也

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