人気のタグ
おすすめのサイト
企業ニュース

ひとり大好き女子が人見知りの克服を決意するまで

2019.05.21

【新連載】朝井麻由美のひとみしり道場 ~コミュ障を直すための修行~

 年々、ひとみしりが酷くなっている。とりわけ大勢が集まる飲み会なんかは、目も当てられない惨状である。とにかく口から言葉が出てこない。「はい」と「そうですね」しか言葉を発さず、口角を一度も上げずに終わった、なんてことはザラにある。どんなにみんなが乾杯や名刺交換、自己紹介に盛り上がっていようとだ。頑として、真顔。

 ここ数年、「ひとり」をテーマにコラムを書くことが多かった。「ひとりが好きだ」と声高に主張し続け、その筋の専門家としてコメントを求められ、『ソロ活女子のススメ』などの本も上梓した。そうして、「ぼっち/ソロ活」の人として認識されるようになってから、飲みの場に誘われることが驚くほど減ったのだ。「ひとりが好きそうだから……誘わないほうがいいか」と周囲に思わせているのだとしたら、恐縮である。合ってるけど。

 そんな生活を何年も続けた結果、ひとつの変化があった。私は以前と比べて明らかに初対面の人と喋れなくなってしまったのである。コミュニケーションにおける筋力のようなものが、使わないうちに衰えていったのかもしれない。飲み会とは、筋トレだったのだ。筋トレの機会をなくした今となっては、かつて自分がどのようにして初対面の人と交流を図っていたのかさっぱりわからない。

 ところで、そもそも「ひとみしり」とはどういう人を指すのだろうか。「初対面の人と喋れない内向的な人」と単純には定義できないように思う。「私、ひとみしりです」と言う人の中には、客観的に見て一体どこがひとみしりなのか、にわかに信じがたいようなタイプがいる。「ひとみしり」とは、何らかの基準があって認定されるものではない。初対面の人と交わせた言葉の数・会話を続けられた時間の長さ、などの数字によって決まるのではなく、本人が感じている主観のものなのである。ここに「ひとみしり」という言葉の難しさがある。どんなに初対面の人と楽しげに喋っていようと、本人がそう言うのならば、ひとみしりなのであろう。端からはスムーズに会話が進んで見えても、人知れず心の中では“ひとみしって”いるはずだ。「結果(初対面の人と喋れているか否か)」とは必ずしも一致しない、それがひとみしりなのだ。

 そう思いながらも、喋れるタイプのひとみしりに対して、私はいつもどこか腑に落ちない感情を抱いている。奴らがひとみしりを名乗っていることに納得がいかないのだ。ひとみしりの風上にも置けない。もっとひとみしりとしての矜持はないのか。「あんなに喋れているのに、ひとみしりだなんておかしい。なんなんだ」と。でも、よくよく考えたら、その苦言自体が、「なんなんだ」である。いかんせん、「ひとみしり」というのは、基本的にあまりよろしくないものだ。なのに、「私のほうがこんなにひとみしりで!」とアピールしたくなる。

 今から全ひとみしりにとって図星なことを言う。そのひとみしりという“ちょっとした自分の欠点”を誰もが皆、薄っすらかわいいと思っているのではないだろうか。自分が傷つかない程度にほどよく自虐にもなるラベル。「ひとみしりなんです」と言うたびに、「ひとみしりが“かわいい特徴”だと思っているんじゃあないよ」ともうひとりの私が警鐘を鳴らす。そう、私はひとみしりな自分のことが、結構好きだ。自分はひとみしりであると開き直り、“キャラ”として許されると思ってしまっている。「ひとみしりなんです」と言いたい。ひとみしりが自分のアイデンティティーのひとつでありたい。しかし同時に、こんなことではいけない、とも思っている。

 先述の「一見、喋れるタイプのひとみしり」はともかく、私のような喋れないタイプのひとみしりは、会話が続くように相手に気を遣わせたり、場が回るようにフォローさせたり、周囲に何らかの負担を強いているはずなのである。ひとみしりは甘え。

 喋れないタイプのひとみしりであると開き直ると、人間関係におけるストレスは確かに減る。ひとみしりという防具を身にまとっていれば、愛想笑いも気遣いも、興味のない相手に興味があるフリをすることも、何もしなくていい。しかし、このままでいいのだろうか。私はこのまま初対面の人と喋れないまま歳を重ね、気難しいお婆さんとして死んでいくのだろうか。

――今から40年後を想像してみる。気難しい婆さんの私は、いつものように朝6時に起きる。若い頃は平気で昼まで寝ていたのに、最近はこの時間に自然と目が覚めるようになってしまった。気難しい婆さんの朝は早い。布団の中でスマホをチェックする。40年後にスマホが存在しているかどうかは不明だが、ともかくスマホ的なものをチェックする。チェックするものの、昔とは操作法も検索の仕方も何もかもが変わってしまって、ろくに使いこなせていないのが正直なところだ。暇を持て余した気難しい婆さんは、外へ出かけることにする。どんなにテクノロジーが発展しても、老いの前には無力なのだ。情報や刺激を得るには、外へ出るよりほかない。とはいえ、ゲートボール教室は初対面の爺さん婆さんに馴染めず、すぐに辞めてしまった。銭湯に行ってみると街の婆さんたちのコミュニティができていた。どうやらオススメの老人ホームの情報交換をしているようだが、気難しい婆さんはその輪に入れるわけもない。気難しいばかりに、情報弱者である。いい老人ホームに入りたいのに、これは困る。

 ひとみしりを克服しよう。コミュニケーション能力は高くて損することはない。たとえ克服できなかったとしても、私はひとみしりである私のことが好きなのは変わりない。成功しても失敗しても、勝ち。それくらいの軽い気持ちで、ひとみしりを巡る冒険に出ようと思う。

文/朝井麻由美
あさい・まゆみ。ライター・編集者・コラムニスト。東京都出身、国際基督教大学卒業。コラムニスト・泉麻人のひとり娘。 トレンドからサブカルチャー、女子カルチャーに強く、体当たり取材を得意とする。 『DIME』『SPA!』『ダ・ヴィンチ』『サイゾー』など、雑誌やWebで執筆。『二軒目どうする?』(テレビ東京系)準レギュラー出演中。 著書に『ソロ活女子のススメ』、『「ぼっち」の歩き方』、『ひとりっ子の頭ん中』など。
https://twitter.com/moyomoyomoyo
https://www.facebook.com/moyomoyomoyo.asai

イラスト/曽根 愛

@DIMEのSNSアカウントをフォローしよう!

DIME最新号

最新号
2019年10月16日(水) 発売

DIME最新号の特別付録は「カラビナ付きマルチツール」!激動のエアライン、超便利な出張ギアを大特集!

人気のタグ

おすすめのサイト

ページトップへ

ABJマークは、この電子書店・電子書籍配信サービスが、著作権者からコンテンツ使用許諾を得た正規版配信サービスであることを示す登録商標(登録番号 10401024号)です。詳しくは[ABJマーク]または[電子出版制作・流通協議会]で検索してください。