私が実際、企業に勤める従業員に、「経営理念」について聞いてみると、
「『経営理念』はあるが、新入社員研修のときに説明されただけ」
「額縁に入れて各部署に掲げているが、まさに絵に描いた餅」
「制定の時にはコンサルタントが来て社員全員のヒアリングなどを行い、相当な金額をかけ作成したようだが、できた後はなにも行われていない。結局、カッコだけ」
「朝礼時に全員で唱和しているが、お題目となっている」
といった状況でした。
「経営理念」は自社の存在意義を明確にしたもので、事業活動を通じて追求し続ける最終目的地である。
誰もがこの「経営理念」の位置づけと役割は認識しているはずです。
ところが、企業活動においていちばん重要な「経営理念」に向けて全社員が行動するように仕向け、できているかどうかを継続的にチェック、改善する仕組みを確立できている企業はごくまれだということがいえます。
これは戦後、私たち日本人が西洋に追い付け追い越せで事業を拡大し、資本主義のもと利益を追求し、ひた走り続けてきたことが生み出した弊害ととらえることができるのではないでしょうか。
「自社は何のために存在するのか」
この問いに立ち返って、企業経営の在り方を根本から見直す時期に来ている。
私自身、理念浸透の仕組みづくりに約19年間関わり続けた結論です。
そして、ここから経営を見直すことで、全社員のベクトルがそろい、生産性を格段に向上させることができることがわかりました。こうなると、不正など起こりうる環境ではなくなります。
手法やノウハウありきの「働き方改革」だけでは、日本の生産性をさらに低下させてしまう危険性さえあります。
まず、根っこを広く張って幹を太くし、どんな環境下でもゆるぎない組織を確立することが最優先課題であることは間違いないでしょう。
文/山元浩二(人事評価制度専門コンサルタント)
日本人事経営研究室株式会社 代表取締役。https://jinjiseido.com/company/yamamoto.php
10 年間を費やし、1000 社以上の人事制度を研究。理念とビジョンを実現するための人材を育成する「ビジョン実現型経営計画」を開発、独自の理論をコンサルティングで展開する。「経営計画」と「人事評価制度」の設計・導入から運用まで支援するスタイルが特徴で、社員の納得度が9 割を超えるなど、経営者と社員双方の満足度が極めて高いコンサルティングを実現。著書に、『小さな会社の人を育てる賃金制度のつくり方 「やる気のある社員」が辞めない給与・賞与の決め方・変え方』(日本実業出版社)、『図解 3ステップでできる! 小さな会社の人を育てる人事評価制度のつくり方』 (あさ出版)、『改訂版 小さな会社は人事評価制度で人を育てなさい! 』(KADOKAWA)などがある。