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4年目医師の本音「医療って何だろう−脳死の現場に立ち会ってそう自問自答しました」昭和大学藤が丘病院呼吸器内科・賀嶋さおりさん

2019.05.13

化学治療をやってよかったのか…

平塚市の総合病院で、2年間の研修医の生活を終えて母校の付属病院に戻り、正式に呼吸器内科を志望しました。研修医は1ヶ月ごとに科が代わりましたが、呼吸器内科に入ってからは、肺ガンの化学治療で3〜4週間入院するとか、入院患者さんを長く診ることが多くなって。「先生、また入院しました。よろしく」とか、患者さんが気を許してくれます。

肺ガンでも手術で取れる方は、呼吸器外科にかかります。呼吸器内科は手術ができない、完治は難しい患者さんが来るわけで。他の科に比べて亡くなる患者さんが多い。先週まで元気だったのに、亡くなられると気が滅入りますし、ご家族は大丈夫だろうかと心配になります。

60才男性の患者さんは、進行の早い小細胞ガンでした。来院時には大きな肺ガンの他に転移もあり、採血のデータを見ただけでも末期であるとわかりました。進行の早い小細胞ガンは抗ガン剤が効きやすい。でも抗ガン剤の化学治療は副作用が強く、亡くなる場合もある。

ご家族には抗ガン剤の副作用が、患者さんにとってどれほど辛いか、時間をかけてお話をしました。ご家族はそれを納得した上で、

「できる限り長く生きていてほしい。少しの望みでも化学治療をやりたい」と。「やってみましょう」となり、抗ガン剤治療を開始して4日後でした。患者さんはお亡くなりになりました。

奥さんや娘さんは泣き崩れて。抗ガン剤治療をやらなければ、生きる時間が伸び最期の時を 家族と安らかに過ごせたかもしれない。化学治療が命を縮めたのかもしれない。

「全力を尽くしてくれて、有難うございました」と、ご家族には言ってもらえましたが、落ち込みました。

「抗ガン剤治療をやってよかったんですかね……」それは上の先生に私が問いかけた言葉です。「正解は誰にもわからない。考え抜いた上での治療なのだから、失敗ではないと思う。自分が判断したことが正解だと思って現場に携わる、その方がいいよ」それは経験を積んだ先生の言葉でした。

人の生命力は私たちの予想を超えると、実感したこともありました。誤えん性肺炎で入院した80代の女性は、寝たきりで認知症を患っていて。肺炎でさらに体力が落ち、治療後のゼリー食も飲み込めない。「口から食べるのは厳しいでしょう。胃ろうを作るか、鼻から管を入れ、直接栄養を取る方がいいと思います」と、ご家族に伝えたました。すると、

「胃ろうや鼻から管を入れて栄養を取るなんて、考えられません。最期まで人間らしい生活をさせたい」と、ご家族は言われて。「リハビリを頑張ってみましょう」と答えましたが、上の先生も厳しいんじゃないかと。

ところがご家族が毎日来て、献身的に病院で出される調整食の介助をされて。時間はかかりましたが、徐々に患者さんは口から食事を摂取できるようになりまして。「よかったですね」と退院した。私たちは病気の患者さんしか見ていませんが、ご家族はそれまでの本人の人生や性格や気力を知っているから、回復を望めたんだなと。

「人の生きる力ってすごい」

上の先生とはそんな言葉を交わしました。そして今更ながら、患者さんを決めつけてはいけないと思った出来事でした。

完治はできなくても呼吸の苦しさが改善され、患者さんが退院する時はやり甲斐を感じます。「また来るね」「また来ちゃダメですよ」仲良くなった方とそんな会話を交わして。

もっと医学を学びたい。治療の幅を広げたい。私はいつか祖父のように、地域に密着して医療を担う、“町医者”になりたい想いを抱いています。そんな私にとって、患者さんのお話にじっくりと耳を傾けることができるこの科は、向いていると感じています。

取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama

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