
■連載/法林岳之・石川 温・石野純也・房野麻子のスマホ会議
スマートフォン業界の最前線で取材する4人による、業界の裏側までわかる「スマホトーク」。今回は世界の5G事情について議論します。
強さを見せつけたクアルコム
房野氏:毎年バルセロナで行われていた携帯電話関連の展示会「Mobile World Congress」が、今年から名称が「MWC」となり、「MWC19 Barcelona」として開催されました。印象はいかがでしたか?
石野氏:ここ数年、テーマは「5G」だったんですけど、ついに商用端末が出てきた。象徴的だったのが、普段はスライドや技術展示、チップなどが置かれているクアルコムのブースにリアルな端末が並べてあったこと。正直、見るところがあまりないというか、端末を置いているだけじゃん(笑)という感じになっていたけど象徴的でした。今年ようやく商用化してスマホサイズに落とし込まれてきたというのが大きなトピックだったと思います。クアルコムの強さが表れていて、試作機もありましたけど「Galaxy S10 5G」とかOPPOの名称未定の5G端末とか、本当に発売される端末が実際に置かれていた。しかも単なるデモではなくて、試験波ですがエリクソンなどのベンダーの実際のネットワークにつながって通信できていた。普段のクアルコムはそういう展示はやらないので、商用化がここまで来たんだというインパクトがあった。一方、クアルコムの斜向かいにブースを構えていたインテルはまだデモ段階で、クアルコムのいう通り技術力の差が如実に出ていた。また、5Gで商用端末を出せたという意味で、チップセットベンダーとしても端末メーカーとしてもファーウェイがすごいということを改めて印象づけたMWCだったと思います。
石川氏:クアルコムは、MWCには参加していないけれど仮想敵としてAppleを相当意識したメッセージを発信していた。クアルコムのブースにいたスタッフはみんな同じTシャツを着ていたんですが、その袖口に「5G ONLY ON android(5GはAndroidでしか使えないと)」というメッセージが書いてあって、明らかに開発が遅れているApple・インテル陣営に対してメッセージを発信していて非常に面白かったし、5G化が進む中でAppleはどうするのかなと本気で心配になってきた。ただ、5Gのネットワークがどれだけ広がるのかは未知数。今年、スマホが5Gに対応できなくても全然問題ないだろうけど、とはいいつつもAppleは大丈夫かなと。
※4月17日にクアルコムとAppleは和解し、今後、6年間のモデムチップに合意。
石野氏:実売にはたいした影響はないと思うんですけど、イメージ的にね。
石川氏:メディア的にね。
房野氏:Appleを不安視する記事がいろいろと出るのでしょうね。
法林氏:まあ、完全に出遅れでしょう。インテルは3Gの時代にモデムのチップを作っていたインフィニオンという会社のワイヤレス事業を買収した。インテルって、86アーキテクチャの、今でいうCore何とか、ちょっと前はペンティアム何々とかを作っていたけれど、別個にモデムチップを作る話が出てきて、2010年にインフィニオンのワイヤレス事業を買った。インフィニオンのモデムはiPhone 3GのときにAppleに採用されたけれど、その後、Appleはクアルコムのチップを採用していて、去年からインテルのモデムチップに変えたんですよ。
石野氏:変えざるを得なかったというか。
房野氏:中国の影響があるのでしょうか?
法林氏:いや、単純にクアルコムにすべてを握られるのが嫌だということだと思いますし、会社としての方向性の違いもあると思う。そこは仕方がないという気がします。それが良い方向に作用するとAppleは考えたのかもしれないけれど、今の5Gの流れからみると結構痛いことになると思います。去年のMWCでもクアルコムとインテルのブースの場所は、確か斜向かいだったけれど、クアルコムはインテルに見えるように「4Gまでやっていなくて5Gができるのか」というようなメッセージを掲げていた。1年後の今、その通りになっちゃった。
房野氏:Android陣営で結束しているという感じはしますか?
法林氏:それはないと思います。ファーウェイは「Balong(バロン)」というモデムチップを作りましたけど、サムスンの「Exynos(エクシノス)」はどうだっけ、Galaxy S10 5Gは違うんだよね。
石野氏:S10 5GはSnapdragonですね。Exynos版もあるようですが。
法林氏:なので、米中というよりは完全に業界の特許も含めた、企業間の競争。そんなにまとまっている感はない。
石川氏:クアルコムが一生懸命まとめようとしている。メーカーとかキャリア各社の幹部を集めて、ブース内の5Gの大きな看板の前でシャンパンセレモニーをして記念撮影をしていた。
石野氏:ファーウェイは呼ばれず。
房野氏:ファーウェイ端末にはクアルコムのチップを使っていないですしね。
石野氏:まったく使っていないことはないんですけどね。
石川氏:昔は使っていた。
法林氏:基地局側でいろいろやったのもあるんだけど、クアルコムは端末側でいうと、モデムチップだけじゃなくて、ミリ波のアンテナを作ったりとかいろんな取り組みをして、Google側もそれをうまくサポートする態勢を整えて、メーカーさんも含めてだけど、着実に5Gに向けて動いてきたんだなということを実感できた。それがクアルコムの担当者曰く、3年間の積み重ねだった。そして正式にローンチになった。
石野氏:Googleの朝イチにやった会見でも「5GはAndroidだけ」って示し合わせたように言っていた。結束して“Androidを盛り上げよう”感というか。Googleは対Apple、クアルコムは対インテル、対Apple両面でという感じで、それぞれの思惑が当然あるんですけど。Googleとしてはインテルはどうでもいいとは思いますが。