
営業パーソンだけでなくあらゆるビジネスの現場で必要となる交渉。それを学問として学ぶ「交渉アナリスト」の認定機関であるNPO法人日本交渉協会の安藤雅旺常務理事に、交渉学とは何なのか、ビジネスの現場でどう生かせば良いか聞いた。
価値創造型の交渉をすべき
――交渉学とは何ですか?
交渉とは当事者たちが対話を通じて、お互いの間にある何らかの問題を解決しようとする活動です。両者にとってより良き合意を得るにはどうすればよいのか、こうした問いに対して科学的に研究しているのが交渉学になります。
交渉の強い人と言うと自分の要求を相手に飲ませる人というイメージがありますがこうしたやり方は長くは続きません。ビジネスは中長期にわたるものです。相手に一方的に要求を飲ませた場合、要求を飲まされた側は形勢が変われば反撃に出たり、場合によっては取引を中止になることもあります。交渉の質を高めて価値創造型にすることが必要なのです。
――交渉学を学ぶ意義は何ですか?
交渉というとお互いの腹のさぐり合いや、自分の要求を相手に飲ませるための画策、自らが勝つことを最優先にした手法といったマイナスのイメージがあります。しかし別の側面では信頼関係をベースにして力を合わせる、双方の利害をうまく調整し紛争を回避する、お互いの問題を協力して解決するなどプラスの側面も多くもっています。
交渉を学ぶ意義は現実の人間社会を直視し、厳しい対立の中においても、対話を通じて双方にとってより良い道(解決策)を見出すことができる力を身につけ、実践することにあります。交渉とは信頼を築く力であり、他者と共に生きるための知恵であるといえます。交渉によって価値創造を志向する、価値創造型の交渉を実践することに大きな意義があると思います。
――価値創造型の交渉とは何ですか?
交渉には奪い合い、価値交換型、価値創造型の3段階があります。第1段階の奪い合い型はゼロサム型と呼ばれ、限られたパイを奪い合う、勝つか負けるかの交渉です。有効なBATNA(代替案の中で最も満足度が高いもの Best Alternative to A Negotiated Agreement)を持つことが必要です。下請けの社長が取引先からの強引な要求に対して「値下げします」「徹夜して納品します」などの対応をしてしまうのは有効なBATNAを用意していないことが大きな原因です。
第2段階が価値交換型です。お互いのニーズの違い、重要度の違いなどの相互の差を活用し、交渉項目を増やすことで戦略的な交渉を実現する、双方にとって満足ができる有益な合意を形成する交渉です。たとえば価格交渉で相手の要求に対してすぐに値下げという形で反応するのでなく、納期や品質など他の項目にも着目して考えてみる、商品価値の他にも顧客の業界情報の提供、相手のビジネスのメリットとなる人脈の紹介など、相手に提供できる価値を幅広く考えてみることです。値下げという相手の要求に対して別の手段で対応できることもすくなくないのです。
第3段階が価値創造型です。共通の目標に向かってパートナーとして取り組む関係に持ち込む交渉です。相手にとってなくてはならない存在になることで、相互の情報がオープンとなり、ビジネス関係が深まり、継続した取引につながります。結果的は営業コストの削減になるのです。交渉学の権威故ライファ先生は交渉で考えられる究極の対話をFOTEと述べています。FOTEとはFull Open Truthful Exchangeであり、思っていることをすべてオープンにして、真実の意見交換をするという意味です。価値創造型の交渉とはまさにこうしたスタイルを目指したものになります。