
■あなたの知らない若手社員のホンネ~株式会社西武ライオンズ/鈴木剛人さん(34才、入社6年目)~
前編はこちら
いろいろな職種で奮闘する、若手社員を紹介するこの企画、今回はプロ野球球団の職員を紹介する。プロ野球の各球団の職員は総じて100名ほど。新卒を育てるより即戦力として、彼のような中途採用者が圧倒的に多いという。プロ野球球団の職員はどのような仕事をしているのか。興味あるところだろう。
シリーズ53回、株式会社西武ライオンズ 事業部アシスタントマネージャー ファンサービスグループ担当 鈴木剛人さん(34・入社6年目)。高校時代の野球部の経験からプロ球団に携わる仕事を目指した。イベント等を実施する際は彼のような球団のスーツ組、そしてチーム、メットライフドーム(旧西武ドーム)を運営管理する部隊、ぞれぞれの部署間の協力が必要で、綿密な根回しが必要となってくる。
各部署との確認がイマイチ、おろそかになりがちだった鈴木さん、メットライフドームでの妖怪ウォッチのイベント等を成功させた。始球式も携わったが想定外のトラブルも多いと、エピソードを語る。
華やかな始球式の舞台裏
始球式にゲストを呼ぶ時は、事前に簡単な台本を作りゲストと打ち合わせをして、「これでお願いします」と。ところがマウンドに上がったタレントの中には、観客に囲まれ歓声がこだまする、球場独特の雰囲気に頭が真っ白になると言います。我を忘れて、あらかじめ打ち合わせしたことが飛んでしまう。アドリブでサインに首を振るポーズを演じたり、「タイム!」とか叫んでキャッチャーに駆け寄ったり。
始球式は2分以内と決まっているのですが、その時間をオーバーしてしまうことがあるんです。メンタルコンデイションを整えている先発ピッチャーは、1〜2分でも試合開始が遅れると集中力の乱れにつながるわけで。たまたま始球式が伸びた試合で、うちの先発投手が打たれたりすると、「試合前のピッチャーは気を尖らせている。もっと気を使って対応しないと…」と反省しました。
選手の負担にならないように
イベントプロモーショングループを3年担当して、今の部署のファンサービスグループに移りました。メットライフドームの試合の時は、放送室で音響を使い、バックスクリーンのオーロラビジョンにスタメン選手の紹介や、観客席のお客さんの顔を映す演出も手がけます。
球場に魅力がなければ、西武ライオンズのすべての魅力がダウンしてしまう。そんな思いから気付いたのは、ライオンズが勝った時に行うビクトリーロードというセレモニーで。ヒーローインタビューの後、選手が球場を一周し、ビクトリーロードという階段を駆け上がっていく、以前からある演出です。
ビクトリーロードの時になぜ、球団歌をみんなで歌わないのだろうか。松崎しげるが歌う「地平を駈ける獅子を見た」は球団歌です。「いや、あれは歌わないほうがいいんじゃないか」、僕の問いかけにそう応える球団関係者もいました。「地平を駈ける獅子を見た」は9回、負けている時に私設応援団が演奏し、みんなで歌うことが多かったから。“負けた時にかかる曲”というイメージになっていて。
「でもそれはよくない。勝った時にこそ、喜びを表す歌にすべきですよ」私設応援団の代表との打合せの席で、僕がそんな提案をすると、「私達もそう感じていた」と、賛同を得まして。2年前から「ウォウォウォ ライオンズ〜」とビクトリーロードの時、雄叫びをあげるように、球場で合唱しています。
今の部署はファンサービスのイベント等のお願いで、直接選手と会って話をする機会が多い仕事です。「極力選手の負担にならないように」というのは、会社全体の共通認識です。選手たちは試合後に治療を受けたり、トレーニングをしたり、時間の使い方を考えている。試合後のイベントにどうしても出られないこともあります。
例えば、試合後の新ユニホームのお披露目にある選手は快く協力してくれましたが、あとでトレーナーから試合後に練習の予定があったことを聞き、選手のイベント参加を事前に相談しなかったことを反省しました。
「選手の時間を使うことを簡単に考えるな」
これも上司の言葉で。そんな中でも試合後のお客さん参加のベースランニング大会に、主将の秋山翔吾選手が先頭になって快く参加してくれます。お客さんが次々とベースを走り、選手がホームベースでハイタッチする。時には参加するファンが多くて時間が取られる。こちらは選手を気遣い、途中で「もういいです」と促しますが、秋山選手は「せっかくファンが来てくれたんだから、最後までやるよ」と。そんな言葉が印象に残っています。