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メンヘラ恋愛物語『生きてるだけで、愛。』原作小説と映画比較

2019.03.16

 一方の津奈木は、出版社勤務で疲れ切っているのは同様でも、小説と映画では印象が異なる。演じる菅田将暉がミスキャストというわけではなく、脚本も書いている関根監督が加えた、原作にはない場面からくる印象だ。

関根光才監督 第26回レインダンス映画祭で開催のワールドプレミア時

 映画の津奈木は、疲れているだけでなく、ゴシップ雑誌を作る文学青年として理想と現実のギャップに苦しんでもいる。加えて、それをわかりあっている同僚女性(石橋静河)という原作小説にはないキャラクターも登場してくる。

 また、小説の津奈木が引き受け手がないというような理由であれ役職上は出世しているのに対し、アンカーマン的な仕事で便利に使われている映画の津奈木はもっと青いイメージ、寧子ほどではないにしろ精神的にもやや不安定だ。それが、このカップルの関係性を小説とは少々違ったふうに感じさせる。

 逆に、小説にあって、映画に登場しないのが葛飾北斎の『富嶽三十六景 神奈川沖浪裏』だ。小説では、手前に大波、遠くに富士山というお馴染みの絵が、大きなテーマである“分かり合えた一瞬”を表すのに重要な役割を果たし、表紙にも使われている。

 その絵に描かれた波の形から富士山の見え方までが1/5000秒のハイスピードで撮った写真と瓜二つという最近の実証が、寧子を通して語られると「私をわかって!」波ザッパーン!な富士に対して「よし!わかった!」と絵筆走らせる北斎、みたいなイメージになって浮かんでくる。自己承認欲求という言葉でくくるにはあまりにも壮大で、ある種の高揚感とともに生きてるだけで愛なのだと納得させられる寧子の語り口=本谷の筆力だ。

 映画の方の一瞬は、2人が初めて出会った時に寧子が履いていた青いスカートに象徴される。夜の明かりの中、走る寧子に合わせ揺れる軽やかな青いスカートは確かに美しい。津奈木がいつまでも記憶にとどめるであろう美しい一瞬だ。だが、北斎の絵から受ける力強さとは対照的に、その一瞬の美しさは、はかなく、せつない。

 それが、そのまま小説の読後感、映画の残す余韻になった。生きづらさを伝えながらも強い生命力につながる明るさを感じさせる小説と、受け止める側のきつさも織り込んだ、せつない映画に分岐した。

 メンヘラの話ではあるが、分かり合えた一瞬など遠い昔になってしまった、あらゆるすれ違い/まんねりカップルが共感できそうな物語、せつなさに涙したい向きには映画を、励ましが欲しい向きには小説をお勧めしたい。

文/山口ゆかり
ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。http://eigauk.com

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