自分が最も苦手な分野に
そんな時に、各店舗を対象に売上げ向上のためコンテストが実施されたんです。「オーダーの単価を上げるために、サラダやデザートを勧めよう」クルーを集めた会議での店長のそんな提案に、「時給は変わんないんだろう」と、僕を含めクルーたちは冷ややかでした。
すると店長が率先してやりはじめた。店舗や電話でサイドメニューのオーダーが取れると、「取れた!」とアルバイトに声掛けして。店長はバックヤードのボードに“正”を付けていったんです。“正”の字が増えていくと、成果が目に見える。僕らアルバイトも徐々に真剣に取り組みはじめました。
サイドメニューを勧めても、電話口で「いらないよ、ピザ早く持ってきて!」というお客さんは多いのですが、めげずに「サラダはいかがですか」「デザートはいかかですか」とお勧めする。中には「サラダね、デザートか、いいね、もらおうか」という方もいて。オーダーがもらえた時は「取れましたぁ!」、店内で声を上げると、「おー、やったじゃん」「すごい!」とか、お互いに褒め合うようになって。店長とクルーの溝も徐々に解消され、店内に一体感が生まれたんです。
コンテストの成績も良く、店長とクルーで食事会をやりました。それからは年末の繁忙期の対策等、店長とクルーが会議を持ち話し合うようになっていったんです。
できるかどうかわからないけど店長っていいな、そんな想いを抱くようになりました。チェリストは個人プレーです。これまでは仕事場でみんなと一緒に取り組み、成長したという実感を持った経験がありませんでしたから。
アルバイトをはじめて3ヶ月後には、店長が休みの時、店舗を任される役職に選ばれましたが、僕は就職先を探していました。そんな時に店舗でドミノ・ピザの人事担当の人に声をかけられまして。僕は想いの丈を打ち明けたんです。
チェロが弾けなくなって、自分の人生は一度終わった。接客とかアルバイトをまとめるとかは、志してきた芸術と真逆なことで、自分が最も苦手な分野だと思う。でも、チェロを弾けない心の穴を埋める意味でも、第二の人生は自分にとって大変な道を選び、チャレンジをして何かを得たい。
僕の話に人事の担当者は、「キミの志をうちで活かすことはできないか」と。そんな言葉が心に刺さりましたね。
まずは店舗で大失敗
入社して3週間の研修を経て、配属されたのは大田区の蒲田店。まず大きな失敗は朝、出勤してオーブンのスイッチを付け忘れてしまったこと。1時間前には点火しオーブンを温めておかないと、気付いたのはオープンの11時で。開店の時にピザが焼けない。この時、すでにオーダーは10数件入っていて。お客さんはお腹を空かして待っている。
赴任の時に、蒲田店の店長は優秀と告げられていました。この失敗を店長に何と報告したらいいのか……。
「気分で生きているところがある」と、自認する星野さん、やがて店長として店を切り盛りしていくのだが、降りかかる難題に彼の“気分”はどう炸裂していくのか。詳しくは後編で。
取材・文/根岸康雄
http://根岸康雄.yokohama
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