
■連載/Londonトレンド通信
第91回アカデミー賞のノミネートが発表された。その中で最多10ノミネートに並んだ『女王陛下のお気に入り』と『ROMA/ローマ』をご紹介したい。笑える豪華絢爛ラブトライアングルの前者に、ノスタルジックなモノクロ映像が胸に迫る後者と対照的な2作だ。前者が2月15日から劇場公開の一方、後者はネットフリックスで配信中というあたりも興味深い。
『女王陛下のお気に入り』は鬼才ヨルゴス・ランティモス監督がアン女王を中心に据えた物語。話題をさらった奇想天外ラブストーリー『ロブスター』で見せた独創性は、史実に題材をとってさえ少しも衰えない。18世紀のイギリスを舞台に、ランティモス・ワールドが繰り広げられる。
トライアングルとなるのはアン女王、その側近の公爵夫人サラ、サラの従妹で女王の侍女として召し抱えられた後、サラにとって代わるアビゲイル。皆、実在した人物だ。交代劇も事実だが、この映画はそれをベッドにもつれ込んだ関係として描いている。
現在も残されている書簡からうかがえるアン女王と幼馴染だったサラの関係は興味を引くところで、2015年にロイヤル・シェークスピア・カンパニーが劇化している。その劇中でもあいまいにされていたようだが、2人が性的な関係であったかどうかは確証がないらしい。
ランティモス監督はそれをズバリ愛人関係としたのをはじめ、いろいろ面白くしている。例えば、アン女王が17人の子を亡くしたのは事実だが、その悲しみをペットのうさぎで癒したというのは全くのフィクション。
虚実取り混ぜた中でも大胆なのが女王のキャラクター。わかりやすく拗ねたり、むくれたり、まるで大きな子どもだ。そんな主人公を無理なく演じているのがオリヴィア・コールマン。イギリスのテレビドラマではお馴染みの顔の1人で、コメディー、シリアス、どちらもいける実力派だ。
自信に満ちた美しい公爵夫人サラを演じるのは007ダニエル・クレイグ夫人レイチェル・ワイズ。ちなみに、サラは正確にはマールバラ公爵夫人、サラ・チャーチルという人物で、一族からは首相となったウィンストン・チャーチルやダイアナ元妃も出ている。
非力な小娘のように見えて、なかなかの策士として描かれるアビゲイルは、『ラ・ラ・ランド』以降、乗っているエマ・ストーンが演じている。
ランティモス監督が『ロブスター』でも組んだコールマンとワイズに旬のストーンを加えたラブトライアングルが、美しいセット、衣装に包まれ進行していくのは眼福だ。笑えるだけでなく、失ってからわかる大切さにしんみりさせる最後も秀逸。