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【2018ヒット商品開発秘話】個人にバカ売れしたコクヨのオフィスチェア「ing」

2018.12.17

 この頃、木下さんはオフィスチェア開発に新境地を見出そうと悶々としていた時期だったようで、若手の研修に紛れ込んで座禅を体験しながら、「座るって何だろう?」と改めて原点を見つめ直していたそうな。当然、短期間の座禅研修ぐらいでは本質を見極められるわけもなく、足の痛みだけが記憶に残った。が、研修直後に社長から直々に届いたメールには、話題になり始めていた日本人の座りすぎ問題に関して意見を求める一文が添えてあった。

 ご存じのように、椅子に座る行為が体に悪いのではなく、長時間座り続けることにより体を動かさないことが問題だ。PC作業で姿勢に変化なく、肩や腰が凝り固まった状態が続けば、身体への負担になる。これまで長年にわたりオフィスチェアを手がけてきたコクヨだけに、ここは他社に先駆けて手を打ちたい。そこで木下さん、足の痛みなど瞬時に忘れて、例のブランコのように動く椅子を社長に提案したところ、一気にプロジェクトが進み始める。

座った感覚はバランスボールに近い座った感覚はバランスボールに近いが、決して倒れないという絶大な安心感がある。誰もが笑顔で、ついつい揺れたくなる仕掛け。

夜に公園のブランコに乗って、何が楽しいんだろう―って考えてました

木下洋二郎

バネなし、調節機能なし。当たり前をなくそう!

 問題になったのは、ブランコのような自然な動きをどう再現するか。これはもう体で考えるほかない。木下さんは、夜な夜な公園のブランコに乗りながら、ブランコの動きの気持ちよさや楽しさを追究する日々を過ごしていた。そしてある日、閃いた。オフィスチェアには絶対必要とされていたバネを使わないようにしたのだ。座面にかかる負荷をバネの力で押し戻すのではなく、ブランコと同じく自然の重力で揺り戻す。こうすることで、体のどんな動きにも追随する、グライディング・メカが生まれたのだ。もちろん念には念を入れ、バネを使った試作品も作ったそうだが、やはりバネなしのほうが気持ちよかった。

 さらに『ing』には、オフィスチェアでは当然のように付いている調節機能のレバー類が見当たらない。これはスペックダウンということか?

「オフィスチェアはひとつのモデルを何百人もの方が使うケースが多いです。自分仕様にカスタマイズできるように、これまでサイズ調整などの複雑な機能も付けてきました。ですが、実際には使われないのが実情です。では、いっそのこと機能をなくしてしまえばいいと思われるかもしれませんが、それではスペックダウンになってしまいます。オフィスチェアは、総務の方に選んでいただくことが多く、価格とスペックの比較で決められるので、単純な引き算ではダメなんです」

 『ing』では、手動で調整する手間はいらず、グライディング・メカが自動で行なう。例えば、多くのオフィスチェアに付いているランバーサポート機能は腰への負担を軽減するために設けられているが、グライディング・メカは座っただけで自然な角度になるのでわざわざ調整する必要がないのだ。これらひっくるめて、まさに前代未聞の機構だが、発想のヒントはどこにあるのか。

「モノ作りには、改良型と革新型があります。改良型は、ターゲットが明確なので目指すところがはっきりしています。一方の革新型、これは市場分析からは決して出てこないもので数多くの試作を経ないと見えません。『ing』開発中は、傍からすれば、僕たちが椅子で体を動かして遊んでいたように見えたかもしれません。でも新しいことに取り組むって、実はこういうことの積み重ねから生まれてくると思うのです」

 ヒット商品を生み出すビジネスパーソンには、常識にとらわれない自由な発想と、自由奔放な遊び心が必要なのだ。

アイデアの発想数が13%アップ

アイデアの発想数が13%アップ創造性テスト(AUT)における、有用なアイデアの総数の比較による。(n=50)
※京都大学大学院 教育学研究科 野村理朗准教授からの技術指導を受けて実施。

取材・文/堀田成敏(nh+)

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