次の時代を読み解く論客として、その言動に注目が集まる落合陽一氏は「人生100年時代」に必要なのは「学び続けること」だと新著で語る。ビジネスパーソンが今「学ぶべきこと」「身につけるべき力」とは何なのか?社会から求められる人材になるには? 生き残る人材を育てるには?新時代を生き抜くヒントを、ロジカルに説く。
ポストAI時代に適応する新しい学び方の手法が必要
――人生100年時代といわれるようになりました。若い世代に限らず、働き盛りのビジネスパーソンも直面する課題といえます。これからの時代を見据え、今後どう生きていけばよいとお考えですか。
変化の激しい、IT化が進むこれからの時代は、流行も、価値観もめまぐるしく移り変わり、目指すべき人生のロールモデルも常に変化するようになるでしょう。こうした時代を生きるには、社会やテクノロジーの進化に敏感に対応できる人のほうが有利になります。
つまり、学生時代を終えた後でも、社会にいながら学び続け、学ぶことをライフスタイルとし、新しい知識を取り込み続けられるかどうかがひとつの鍵になります。
最新著書『0才から100才まで学び続けなくてはならない時代を生きる学ぶ人と育てる人のための教科書』では、どうしたら社会の中でストレスなく楽しく学び続けられるのか。さらには、どうしたら、社会に出てからも学ぶ意欲を持ち続ける人を育てられるのか、という課題に対して、僕なりの提案をし、「新しい時代の学び方の手法」を伝えたいと考えました。
――なぜ「新しい時代の学び方の手法」が必要なのでしょうか?
常識も価値観も移り変わりの激しい時代においては、今何をすべきか、その正解はなく、誰も教えてくれません。そして、誰かに教えてもらわなくても自分の頭で考えられることが、21世紀を生きる人たちに求められているのです。だからこそ、「何を学ぶのか」よりも、メタ的な「学び方の手法」を身につけることが、とても重要になると思っています。つまり学習戦術ではなくて学習戦略を学ぶことが必要なのです。
近代的ルールベースで標準化された世界では、決められたルールに沿って生きていけばいいわけです。すると、無意識のうちに、世間が作った〝社会的な当たり前〟にすり寄り、思考が止まってしまいます。インターネット以前の社会では、テレビや雑誌、新聞から得られる情報だけを頼りに暮らしていました。しかし今は、パーソナルデバイスを片手に、様々な情報が手に入ります。家族全員で居間に座ってひとつのテレビ画面を見て、同じ情報を得ていた時代とは違います。これからのルールはシンプルで、「個」に最適化されたプロダクトや、サービスの時代です。ここにイノベーションの出発点があります。
これまで「当たり前」とされていた価値観を疑い、「なぜ」と問いかけられる力が必要になります。自分の頭を使い、近代の枠組みの外側に立って思考することで、ビジネスのヒントが見つかるし、学問や研究を発展させるうえでも大きなチャンスになるでしょう。
例えば今、世界中から最も注目を集めている大学のひとつに、アメリカのミネルバ大学があります。この大学は、教室を持たず、世界7か国のキャンパスを移動してオンラインで講義を行なうという、アクロバティックなカリキュラムが特徴です。この大学が目指しているのは、様々な課題を解決するために必要な「思考法」を身につけること。つまり、知識を教えるための大学ではなく「考え方」を教える大学なのです。
この大学が人気を集めていることからわかることは、学校に対する新しい価値判断が求められる時期が訪れつつあるということではないでしょうか。変革期だからこそそれまでの常識にとらわれない価値判断が重要になるのです。
――アメリカでは国家戦略として積極的に「STEM教育」が導入されています。AIやロボットに「使われる側」になるのではなく、AIを「使う側」として活躍するための教育といわれていますね。
STEM教育の重要性は、日本でもたびたび指摘されてきました。STEM教育とは、「Science」(科学)、「Technology」(技術)、「Engineering」(工学)、「Mathematics」(数学)、これらの頭文字で「STEM」。つまり理工系の教育です。
そして、近年は、AI時代にこそ、審美眼・感性が重要であるという視点から、STEM教育に「Art」(デザインを含むアート)を加えた「STEAM教育」が注目されるようになりました。
STEAM教育を日本の教育に取り入れる重要性が語られるようになったことは非常に評価できます。なぜなら、物作りをするにしても、世界の本質を探るにしても、プログラムを書くにしても、これらの知識はすべて必要で、特にアートによる人間性の自覚と学習は不可分だからです。