30~40代のビジネスパーソンが参加
他に、美術品と世界で今起こっている事柄は密接につながっていること、美術品が社会を変えるツールであることを歴史的事件や先日起こった事件を例にして話された。ツールであることを示す例としては、スペインのグッゲンハイム・ビルバオが公害とETA(スペイン北部バスク地方の武装組織)テロの街を変えること、ベネッセアートサイト直島が、過疎の島「直島」と、産廃の島「豊島」を蘇らせる大きな要因となることを挙げた。最近起こった大きな事件としては、UAEのアブダビ首長国がレオナルド・ダ・ヴィンチの「サルバドール・ムンディ」(イエスの肖像)を4億5,030万ドル(日本円でおよそ508億円)の史上最高価格で落札した事例を示した。イスラム教国がイエスの肖像画を落札したのは、過度の石油依存から観光立国へと変化しようとする兆しであるという。そのきっかけは、ルーブル・アブダビの開館である。
当日は57名の参加者がおり、立ち見が出るほど盛況だった。男女比は7:3で男性が多く、30~40代を中心に集客した。大企業のマネジメントクラスから経営者層、一般のビジネスパーソンまで幅広い層の人が集まった。現代美術への関心はあるがどのように観たら良いか分からない、アートがどのようにビジネスに関わるかに興味のあるビジネスパーソンが多く見受けられた。最後の質疑応答も中々終わらないという関心の高さだった。セミナー後、実際にアート作品の購入に至った方もいた。
この企画は今後も継続していく予定だ。
グローバル企業が幹部候補生にアートを学ばせるためスクールに送り込んでいる現在、ビジネスパーソンもアートに無関心ではいられない。会社員時代の宮津氏のようにボーナスをためてアートを購入してみるのはいかがだろうか?
講師:宮津大輔 氏
アート・コレクター、横浜美術大学教授、京都造形芸術大学客員教授
広告代理店に務める30歳の時に草間彌生の作品を1年分のボーナスで購入したことを皮切りに、企業に勤めながら現代アート作品の収集を始め、約400点のコレクションやアーティストと共同で建設した自宅が国内外で広く紹介され、ART BASELのGlobal Patrons Counsilに選ばれる世界的な個人コレクターとなる。大手通信企業の広報、人事管理職を経て、美大教授に転身。文化庁「現代美術の海外発信に関する検討会」委員、「Asian Art Award 2017」審査員等を歴任。1963年東京都出身。
著書
『アート×テクノロジーの時代~社会を変革するクリエイティブ・ビジネス』 (光文社新書)
『現代アート経済学』(光文社新書)
『現代アートを買おう! 』(集英社新書/中国・金城出版/台湾・Uni Books/韓国・ArtBooks) など。
取材・文/稲垣有紀