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2018.10.15

「娘」じゃなくて『イパネマの「少年」』って何ですか?

「イパネマの娘」という歌がある。ボサ・ノヴァの代名詞的名曲だ。リオデジャネイロ・オリンピックの開会式でも使われ、ビートルズの「イエスタデイ」についでカヴァーが多いといわれるほど、世界じゅうに知れ渡っている。誰でも一度は耳にしているはずだ。この名曲、じつは「イパネマの少年」という別ヴァージョンがあるのはぞ存じだろうか。

 この歌は、ブラジルを代表する作曲家アントニオ・カルロス・ジョビンと作詞家ヴィニシウス・ジ・モライスによって作られ、1964年のアメリカでのヒットから世界じゅうにボサ・ノヴァ・ブームを巻き起こした。ジョビンとモライスがリオのイパネマ海岸のバーで飲んでいるとき、外を歩く美少女を見て発想、彼女への届かぬ想いを歌にしたという(モライスは有名なプレイボーイであるというのを知るとイメージが変わってしまうのだが、それはさておき)。モライスのポルトガル語歌詞はノーマン・ギンベルによって英訳された。

 大ヒット・ヴァージョンは女性であるアストラッド・ジルベルトが歌った作品だが、女性が「女性に対する想い」を歌うのは、感情移入という点ではちょっと弱い。そこに目をつけたのがジャズ・ヴォーカリストたちだ。ボサ・ノヴァ・シンガーは女性でもほとんどオリジナルの「娘」の歌詞を歌うが、女性ジャズ・ヴォーカリストたちはこぞって「娘」を「少年」に変えて歌ったのだ。ペギー・リー、ダイアナ・クラール、ローズマリー・クルーニー、シャーリー・ホーンなど多くの「少年」版が存在する。

 ジャズ・ヴォーカリストの「ジャズ」たるところとは何か。それは、既成の楽曲を「自分の歌」にして表現するという点に尽きる。ジャズになじみのない読者の方には、驚きかもしれないが、ジャズ・ヴォーカリストにとって、歌詞の男女を入れ替えるのは日常茶飯事なのである。歌詞のドラマやストーリーを自分の立場で歌って感情移入することは、「自分の歌」にするためのひとつの大きな手段だからだ。既成の楽曲の忠実な再現など、ジャズ歌手がもっとも嫌う手法。男女入れ替えに代表される「改変」は、いわば「ジャズ歌手であること」の表明なのだ。

 だが、これは単純な「替え歌」にはならなかった。もとの歌は、(あくまでひとつの解釈だが)いわばガールハントの歌。それもビーチでの物語だから、若者であることが前提だろう。若く可憐な声で男の立場から歌うアストラッド・ジルベルトなら物語としていいが、(多くの場合若さを売りにしていない)ジャズ・ヴォーカリストが歌うとどうだろう。海岸を歩く「ラヴリー・ガール」ならぬ「ハンサム・ボーイ」が振り向いてくれないことに、感情を込めて「Ahhhh」とため息をつくのだから、ずいぶんイメージは変わってしまう。でもこれでいいのだ。これが「自分の歌」にするということ。つまりジャズ化!なのだ。

「少年」版をいち早く取り入れたのが、「女王」サラ・ヴォーン。しかもアストラッドの大ヒットの真っ最中に録音しているのだ。大ヒット曲ほど「自分の歌」が映えるのがジャズなのだ。あのドスの効いた太い声で「Ahhhh」とやられると、陽光降り注ぐビーチからは遠く離れた世界に連れて行かれてしまう。この「自分の歌」の意味に気がつくと、ジャズはぐっと楽しくなる。

 このサラ・ヴォーンの最高の「イパネマの少年」をはじめ、カーペンターズを歌うエラ・フィッツジェラルド、マイケル・ジャクソンを歌うエスペランサなど、「大ヒット曲を自分の歌にした名演」は、発売中の隔週刊CDつきマガジン「JAZZ絶対名曲コレクション」(小学館)創刊号でたっぷり聴くことができる。きっと「目から鱗」間違いなし。

※「JAZZ絶対名曲コレクション」公式サイト:http://www.shogakukan.co.jp/pr/jazz4/

文/編集部

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