
人生は長い。仕事をして20~30年が経つと、もうベテランといった感じがあるが、まだまだ先がある。70年のキャリアを持つ80~90代の人たちを思うと、20~30年が相当、若いように感じる。
今、多くの働く人々は、日常的に人間関係に悩んでいるといわれる。しかし、人づきあいは仕事においてもプライベートにおいても一生続くもの。
ここで、少し70年のキャリアを持つ精神科医の人づきあいの秘訣に耳を貸してみよう。
精神科医の奥田弘美先生に、89歳にして現役精神科医を続ける恩師・中村恒子先生との交流の中で学んだという人づきあいの秘訣を教えてもらった。
アドバイスや妙案は必ずしも必要ではない
精神科医の中村恒子先生は、先進的な治療技術も特殊なカウンセリング技法も持っているわけではない。ただただ街のお医者さんとして、患者さんの話を聞きながら診療を行っているだけだという。しかも驚くことに、中村恒子先生は、終戦後の混乱期に医師になり激動の時代を生き抜きながらから70年間ずっと勤務医、つまりサラリーマン医師として診療を続けているという。
そんな中村先生は、独特の考え方で仕事をしているようだ。
―アドバイスしたり、目の覚めるような妙案を与えることができなくても、自分と同じところまで降りてきてくれて、話を聞いてもらえるだけで、人はちょっとラクになるんですわ。
中村恒子 聞き書き:奥田弘美「うまいことやる習慣」より
人がいいと「何か相手に貢献しなくては!」と思ってしまいがちだが、実は話を聞くだけでよかったりする。まず中村先生は、「へぇ~そうなんか」「大変なんやねぇ」と温かく頷きながら話をただひたすら聴くという。
そこにはこんなコツがあるそうだ。
・気持ちを入れすぎると大変になるし判断を誤ることもあるので、「みんな大変やなあ」「頑張っているなあ」くらいのいい距離感を持ちつつ、穏やかな態度で話を聞くのが一番。
・はっきり言えば、心の悩みは薬で100%消せるわけでもないし、他人のアドバイスで解決するわけではない。その人が答えを見つけるまで、じっくり寄り添うつもりで焦らずに話を聞いていく。
・絶対に秘密は守る。
・安心してグチを言い合えたり、弱みを見せ合えたりする関係が大事。
・自分の弱いところを安心してさらけ出せるような人間関係があれば、人はなんやかんやで元気でやっていける。