
■連載/あるあるビジネス処方箋
働き方改革の一環として、「女性の管理職・役員を増やそうー」が唱えられている。政府は2020年までに管理職など「指導的地位」に占める女性の割合を30%に引き上げることを目指している。総務省の「労働力調査」では、2016年の女性管理職比率13%。欧米先進国の女性管理職比率は3~4割が多い。
今回は、女性の人事コンサルタント・佐藤 文さん(株式会社トランストラクチャのコンサルティング部門シニアマネージャー)に、特に大企業においての女性の管理職・役員を増やす議論について話を伺った。連載の過去の記事「「女性の役員・管理職を増やそう」議論の問題点」や「「私が管理職を目指す理由」アサヒビール秋山弥生さん」などとあわせてお読みいただくと、日本企業の管理職のあり方や昇格の問題が浮き彫りになる。ぜひ、ご覧になっていただきたい。
Q 政府は、経済界や企業に「女性の管理職を増やすように」と呼びかけています。人事コンサルタントとして、どのように感じられますか?
女性の管理職を増やす以前にするべきことがあるように思います。たとえば、管理職のあり方やその数についてはもっと深く話し合われるべきです。
私がコンサルティングに関わってきた会社の中には、管理職の数が多すぎる会社が少なからずありました。一部の大企業では、管理職と呼ぶのにはふさわしくないような仕事を管理職がしていました。
たとえば、一般職の社員がするような事務の仕事をしているのです。このような管理職が多数いるのは、昇格の基準があいまいな中、年功的な昇格管理を長年してきたからだと思います。40~50代の管理職の賃金を役割や成果に応じて評価したうえで減らそうとしても、難しいのです。役割や成果があいまいであり、しかも、管理職としての賃金などの待遇が既得権になっているからです。賃金などは生活にかかわる問題である以上、変えようとすると管理職からも抵抗を受けます。
こういう問題があるにも関わらず、女性の管理職を安易に増やしていくと、ローパォフォマーを増やすことになりかねないのです。そのことを私は懸念しています。これは女性に限らず、男性にも言えることだと思います。
Q ジェンダーフリーの影響を受けていると思えるような識者や言論人、政治家などが、「女性の管理職をとりあえず、増やそう。できないならば、降格にすればいいではないか」などと発言しています。どのように思われますか?
日本企業では、いったん管理職にした社員を降格にすることは少ないのです。多くの大企業の人事評価制度は職能資格制度であり、この制度のもとで降格は運用上、難しいのです。
むしろ、私はコンサルティングの場では、「管理職への登用の基準をより厳格にしませんか?」とご提案しています。例えば、外部アセスメントなどを使い、より客観的に見極める、あるいは、ポスト数に応じて昇格人数を制限する、といった仕組みです。
今は特に大企業などでは、管理職に求められるマネジメントのレベルが相当に高くなっていることを考慮する必要があります。たとえば、小売やIT業界などでは、人材の多様化が進んでいます。外国人や女性が多い職場では、「会社」や「仕事」に対する価値観や考え方などが様々です。国籍が違えば、多少なりとも言葉の壁はあり、業務指示や育成にも工夫が必要になります。多様な人材に対して必要以上に気を使った結果、部下の成長を促すこともあるようです。
こういう状況である以上、管理職として勤まるかどうかはわからないが、とりあえず、昇格させてみようということは避けたほうが賢明と私は思います。管理職に限らず、社員に求められるスキルなども専門化、高度化しています。安易に管理職にすると、部署や部下の方などが混乱してしまうことも考えられます。
Q 前述の識者や言論人、政治家などの多くは女性です。佐藤さんも女性ですが、企業のとらえ方や分析の仕方が相当に違うのですね。
おそらく、出発点が違うのではないかと思います。そのような方は、男女の差を様ざまな意味でなくしていこうとお考えなのではないでしょうか。私は人事コンサルタントとして日本の企業をより強くしていこう、と考えているのです。そのためには、たとえば、管理職の定義を明確にして、昇格の基準を厳格にすることなどが必要になります。
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