■シャープで学んだ「商品企画のスキル」
名刀ペーパーナイフは、細部にもこだわりを見せている。
鍔や刃紋なども、本物を忠実に再現しているそうだ。とくに土方歳三の和泉守兼定モデルのは、東京都日野市の土方歳三資料館との共同企画である。
それにしても、実在の日本刀をペーパーナイフとして再現するという発想は、誰もができるものではない。そもそもニッケン刃物はハサミを製造する企業だが、そのハサミですら日本刀モチーフのコラボ製品に作り変えてしまった。Makuakeのキャンペーンページにも沖田総司モデルのハサミが同時出展されている。
「私はかつて、シャープの商品企画のセクションにいました。そこで2年間働いていましたが、本当にいろんなことを学びました」
ここで熊田氏が例に挙げたのは、かつて大きな話題となった『ヘルシオ炊飯器』である。これは窯の中で洗米ができるという、じつに画期的な製品だった。
「高級炊飯器市場でとくに強いのが、タイガーと象印です。それ以外のメーカーは非常に影が薄いのが現実で、シャープがそこに切り込むことは容易ではありません。だからこそ、他社が決してやらないような面白い発想を詰め込みます」
確かに、シャープの製品は消費者も専門家も仰天するようなものが多かった。
筆者が子供の頃に憧れたのは『SF1』という製品である。これはスーパーファミコンが内蔵されたテレビだ。今考えると随分斜め上を行く製品だが、子供心を刺激するには十分過ぎる魅力を放っていたことは確かだ。
結局、SF1は普及しなかった。しかし「ふたつの製品をひとつにする」という発想は決して間違ったものではない。「普及することはないかもしれない」ということにも恐れず、果敢に新しいものを生み出す精神。それがニッケン刃物の『名刀ペーパーナイフ』シリーズにも受け継がれている。