■商品として魅力的か? ★★★★(★5つが満点)
『シビック』は1972年に初代を発売して以来、日本のコンパクトカーのトレンドを牽引してきた。 初代の登場が鮮やかだったことは子供心に良く憶えている。それまでの日本車はアメリカ車を縮小コピーしたようなものが多かったのに対して、『シビック』はヨーロッパの小型車のようだった。小さいことやシンプルであることを良しとして、大きなクルマが持っていない価値を率先して提供していた。
2代目、3代目とモデルチェンジを繰り返しても、走行性能であったり、デザインであったり、パッケージングであったり、『シビック』はその都度、新しい価値を生み出していった。“牽引”どころか、今まで存在していなかった価値を新たに“創造”する、日本車を代表する一台だった。
だが、2000年代に入るとマーケットの変化やシビック自身の大型化とより小さな『フィット』の投入などもあって、こと日本市場に於いてはかつてのような輝きと存在感を失っていったように見えた。それは、『シビック』自身が迷走し、新しい価値を掴み損ねているのと同時に、自動車全般が提供できる価値と社会が期待するものとの間に少しづつ乖離が生じて来たことを図らずも体現していたのではないか。いま思えば、そう思えてくる。
しかし、今、その乖離は急速に縮まろうとしている。電動化と自動化とコネクティビティが急速に進化することによって、自動車はまったく新しい価値を提供し始めている。電動化以外の2つで『シビック』やホンダのクルマたちが他の日本車を半歩リードしているのはその現われだ。
ホンダは他の日本の自動車メーカーに較べて、クルマのこれからの大きな変化を認識していることを隠していない。『シビック』のCMで庵野秀明を起用し、「Go Vantage Point」と言ったり、軽自動車のCMで「ママの忙しい日常をサポートする」といったようなコピーを全面に押し出したりしているのも、その現われではないか。
特に『シビック』のそれは、深く大きなテーマについて正面からメッセージを投げ掛けている最近では稀有なテレビCMだ。ホンダの気概を感じた。『シビック』にはインターフェイスや車内外のデザイン、電動化などでのさらなる進化を期待したい。初代から3代目ぐらいまでと同じように『シビック』が世間を驚かせてくれる時代がそろそろやってきたのではないかと思いたい。
■関連情報
http://www.honda.co.jp/CIVIC/
文/金子浩久
モータリングライター。1961年東京生まれ。新車試乗にモーターショー、クルマ紀行にと地球狭しと駆け巡っている。取材モットーは“説明よりも解釈を”。最新刊に『ユーラシア横断1万5000キロ』。
■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ
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