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現実的な女は悪者か?

2017.11.02

 一方、小説はトニー(ジェイク・ジレンホール)の復讐劇だ。

 妻(アイラ・フィッシャー)と年頃の娘(エリー・バンバー)を野卑な男(アーロン・テイラー=ジョンソン)が率いる一団に連れ去られたトニーが、刑事(マイケル・シャノン)の助けを得て一団を追っていく。テキサスの荒れ地を舞台にした残酷な物語だ。

 小説では夜道で遭遇した一団を表すのであろうノクターナル・アニマルズは、若き日にエドワードがスーザンにつけたニックネームでもある。そんな小説を書き、別れてから20年もの歳月の後、スーザンに送りつけたエドワードの狙いは?

 前述の台詞は、正確にはWhen you love someone, you work it out. You don’t just throw it away. You have to be careful with it, you might never get it again.「誰かを愛したなら、やり遂げろ。ただ捨て去ってはいけない。注意深く扱わなければ、再び手に入れることはできないかもしれない」くらいの訳だろうか。まだ一緒だった頃のスーザンへのエドワードの言葉だ。観終わった後、この言葉が暗示を超え呪いのように響く。

 スーザンの仕打ちの酷さに霞んでしまうが、芽が出ずにいる小説家を夫とする妻への「愛を捨て去ってはいけない」という言葉は、実際問題として、言うは易し、行うば難しだ。

 芽が出ない頃の夫を支えたケースで有名なのは、舞台演出家の故蜷川幸雄氏が自分の仕事では食えなかった時代を、女優だった妻の真山知子氏が経済的に支えたというものだ。この話が美談なのは、蜷川氏が大成したからこそだろう。ご存知のように、芽が出たどころか、ここロンドンにも何本も舞台を持ってくるほどの世界的な演出家になった。

 芽が出ないまま終わる夫を支え続けた妻は、その苦労を称えられることもないどころか、夫がヒモ呼ばわりされるのが落ちだ。もし、スーザンが友達なら、イケメンエリートが現れた時に、先々の見通しが立たない夫のもとに留まれとはとても言えない。

 それでも、この映画を現実的でないと否定するつもりは全くない。映画が愛の側に立たなくて、ほかに何が立つというのか。いや、そもそも、テーマは現実か愛かではなく復讐だ。小説の中のトニーと、それを書いたエドワードが重なるように描かれたこの映画は、愛を失った人の悲痛が胸を引き裂く。愛を捨て去ってはいけない、のだ。

 その物語に酔いながら、それでも、エンディングの佇むスーザンには、こっそり「そうは言ってもねえ…」慰めを送りたくなる。

文/山口ゆかり

ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。http://eigauk.com

■連載/Londonトレンド通信

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