
■連載/Londonトレンド通信
この9月にロンドンで開催された第25回レインダンス映画祭で、東京・新宿二丁目の“売り専”と呼ばれる男娼を撮ったドキュメンタリー映画『売買ボーイズ』が上映された。上映後の制作スタッフによるQ&Aでは、日本人の差別意識全般に話が及んだ。レインダンス映画祭は世界各国から作品を集めるインディペンデント映画祭。
『売買ボーイズ』は、まず、新宿二丁目を映し出す。ゲイバー、クラブなど800もの店が立ち並ぶ世界最大級のゲイタウンだという。
主な登場人物はゲイバーという形式のとある店のボーイたち。客に気に入られると、場所を移し性的なサービスをして金銭を得る。顔も名前も出して話すボーイ、仮面をつけ名前も秘して話すボーイと、カメラに向かう様子からも仕事に対する立ち位置がうかがえる。だが、立ち入った話までフランクにしているのは一様だ。
ボーイにゲイは少なく、手っ取り早く稼ぐ手段として割り切って働くストレートがほとんどというのが意外だ。ボーイとなった理由も、東日本大震災で職や家を無くしたというものからギャンブルまで、それぞれに事情を抱える。
話す内容はイラストで再現される。ナレーションのみより絵的に面白く、きわどい話もあるので実写にせずイラストにしたことで緩和される部分もありそうだ。根底はダークだが、ユーモアもある映画だ。
上映後に製作総指揮のイアン・トーマス・アッシュと撮影/プロデューサーのエイドリアン・ストーリーがQ&Aに登場。ゲイであることをオープンにしているイアンと、セックス産業で働く友人が多くセックス・ワーカーへの偏見はないというエイドリアンだ。
エイドリアン・ストーリー(左)とイアン・トーマス・アッシュ(右)
日本で作品を撮り続けてきたアメリカ人フィルムメーカー、イアンは、2014年のレインダンス映画祭には『-1287』で監督として参加している。イアンの友人だった日本の主婦がガンで亡くなるまでの1287日を撮ったドキュメンタリーだ。病と闘う姿が感動を誘う闘病記と趣が異なるのは、主婦の胸の内にうずまく感情の生々しさゆえだ。心の澱を吐き出すかのように、カメラ越しのイアンに家庭の秘密を打ち明けていく。
それに続き、二丁目にかかわる様々な人の本音を引き出してみせた『売買ボーイズ』は、同じく日本で映画を撮っていたエイドリアンと何かいっしょにできないかと選んだ題材だという。エイドリアンは「僕らは1年くらいカメラ無しで彼らと話しました。そうやって信頼を築いていきました」と、こちらでも功を奏したのは長い時間の積み重ねだった。