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フォルクスワーゲン・グループの複合施設『アウトシュタット』が提供する真のカスタマーサービスとは

2017.05.09

「実は『アウトシュタット』ができる2000年以前にも、本社工場での受け取りサービスは行われていました。しかし、これほど多くはありませんでした」(広報担当のトビアス・リーペ氏)

 ホールやその隣の二棟のガラスのタワー(工場で生産されたクルマが引き渡しまでの間、一時的に保管されているガラス張りのタワー)の建設費は莫大だっただろうし、日々の運営コストも大きなはずだ。そこまでコストを掛けてまで行う理由はどこにあるのだろうか?

 

「フォルクスワーゲンの認知を広げ、顧客を獲得することです」(同)

 その数は約10万人だというから驚きだ。もちろん、ここに来る前にフォルクスワーゲンの購入をほとんど決定していて、話のついでに『アウトシュタット』を訪れている人もかなり含まれているだろう。

「開始前にはディーラーの反対もあったのですが、注文は必ずディーラーで行うようにすることにして納得してもらいました」(同)

 注目すべきは、このサービスをフォルクスワーゲンが旅行商品化していることだ。ICE(超特急列車)と『アウトシュタット』内に併設されたリッツ・カールトンホテルを予約し、工場見学なども組み合わせ、前述した音楽やサーカスなどのさまざまなイベントの時期にパッケージツアーとして売り出している。

「リピーターの方の中には、自分が行きたいイベントの時期に合わせてクルマを引き取りに来る人もいます」(同)

 リーペ氏は明言しなかったが、そのパッケージ代金の全額や一部をディーラーが負担して、ディスカウント代わりにしていることも十分に考えられる。最初は反対していたディーラーも、顧客コミニュケーションのための有効なツールとして活用していると想像することができる。

「17年間も行なっているので、2回目、3回目というリピーターの方々もいらっしゃいます。最初に利用される方の多くは、パッケージツアーを購入されています」(同)

 単にクルマを引き取りに行くだけでなく、それを敷地内で行うイベントなどと組み合わせ、五つ星ホテルに宿泊するパッケージツアーとして仕立て上げている。顧客も、クルマを受け取った後、自宅に直帰しないで、そのままどこかを巡るドライブ旅行をして、結果的に新車の購入を体験化して楽しんでいる。

 メーカーとしてみれば、ブランドに対する顧客のロイヤリティを高め、リピーターを増やす有力コンテンツの一つに位置付けることができる。そのためには、単に新車を引き渡すだけではなく、『アウトシュタット』という“舞台”を用意して、そこで演じられる各種のイベントを用意するという演出と工夫が欠かせない。それらがあったからこそ、2000年以後に利用者が増加したのだ。やはり、単なる引き取りではなく、引き取りを題材とした旅行商品に仕立て上げているのだ。これはもう、エンターテインメントの一種である。

 クルマの引き取りは旅のメインイベントであるけれども、すべてではない。フォルクスワーゲン社はクルマというハードウェアを製造しているけれども、引き取りサービスを一つの“体験”とした旅行商品、エンターテインメントとしても販売していることになる。とてもよく考えられている。持続させ、発展させてきた努力に敬意を払いたい。

「今日からこの『ティグアン』であちこち出掛けることを想像するだけでワクワクしてくるわ」

 小さな男の子2人を連れた夫婦の妻が満面の笑顔で話してくれた。新車を買うという行為は、そのクルマと過ごす自分と家族の未来を肯定的に想像することである。だから、みんな笑顔だったのだ。これもまた、クルマのソフト化のひとつの現れである。日本の自動車メーカーにも実行してほしい。

文/金子浩久

モータリングライター。1961年東京生まれ。新車試乗にモーターショー、クルマ紀行にと地球狭しと駆け巡っている。取材モットーは“説明よりも解釈を”。最新刊に『ユーラシア横断1万5000キロ』。

■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ

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