『アヴェンタドール』や『ウラカン』などのスポーツカーの生産は拡大させずに需要を一定に保つようにするが、SUVはその限りではないということだ。ドメニカリ氏はスポーツカーと新しいSUVの位置付けを明確に分けていた。それは新技術の採用にも伺えた。
「『ウルス』の2つ目のバージョンには、ハイブリッドのパワートレインが採用され、それがランボルギーニ初のハイブリッド車になるだろう。スポーツカーには考えていない。自然吸気のV12はランボルギーニの強味であり、資産であるからだ。だから、(他メーカーのような)ターボ過給化も考えていない。法律や規制が定められた時に考える」
同様に、自動化や運転支援もスポーツカーでは想定していないが、SUVでは準備しているという。
「SUVはコモディティ(生活必需品、日用品)のようなものだからです」
ここまで聞くと、ドメニカリ氏の言葉はビジネスライク過ぎるように聞こえる。スポーツカーの名声とイメージを利用して、SUVをたくさん売りまくろうという目論見が露骨だからだ。しかし、次の言葉を聞いて、その印象は一転した。
「世界を知れば知るほど、新しい現象が生まれてきている。世界の変化に対応しなければならない。若者の中にもランボルギーニに関心を寄せてくれる者が出始めてきています」
なんと謙虚で柔軟な言葉なのだろう。クルマに限らず、ラグジュアリーブランドの経営者は時として独善的であることが顧客や市場、投資家などから求められる。それがプレミアムブランドを体現することになるからだ。
実は、ドメニカリ氏は1991年にフェラーリに入社以来、重要な職務を歴任し、2004年から2014年にはF1チームの代表を務めていた。その後、アウディに移籍し、2016年3月にランボルギーニに来た。まだ一年経っていないのである。フェラーリの流儀に精通しているからこそ、そのオルタナティブであるランボルギーニの魅力と価値を明確に再定義できるのだろう。
「ランボルギーニは単なる自動車メーカーではなく、全本位のラグジュアリー体験を提供する会社を目指します」
ドメニカリ氏率いるランボルギーニの動向に要注目だ。
文/金子浩久
モータリングライター。1961年東京生まれ。新車試乗にモーターショー、クルマ紀行にと地球狭しと駆け巡っている。取材モットーは“説明よりも解釈を”。最新刊に『ユーラシア横断1万5000キロ』。
■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ