佐藤裕一郎 《Nurse log》
フィンランドの湖畔で出会った1本の白樺の木に魅了された佐藤氏は、制作の拠点をその地に移す。《Nurse log》では、原生林の風景を黒鉛(鉛筆、シャープペンシル)だけで表現。写真のようなリアリティがありながらも、近付くと紙と黒鉛の質感を感じ取ることができ、森の空気感や匂いまでもが伝わってくるような作品だ。
「フィンランドに滞在して8年になるんですけが、厳しい自然の中で、日々循環している生命のエネルギー、生命感を表現したいと思っています。作品制作のきっかけとしては『この風景を自分のものにしたい』『絵にして自分の感覚を確かめてみたい』という気持ちがありました。森を描いた作品は細部まで描き込みしているので、遠くから眺めたり近くに寄って観たりして、いろんなものを発見していただきたいですね」(佐藤裕一郎氏)。
工芸という日本独自の伝統を進化させた作家たちの作品には、細部までこだわりが詰まっている。さまざまな角度、距離から鑑賞し、緻密な手仕事を発見すると、どこか作者と心で繋がったような感覚になる。込められた思いを聞かずとも、工芸作品には鑑賞者に訴えかけてくるものがあると感じた。各アーティストの新作はもちろん、今後の“KOGEI Next”の活動にも注目したい。
今回の展示作品の図録はこちらから無料で閲覧できる。お気に入りの作品や作家と出会えたら、次回の展示の際にぜひ足を運んでほしい。
取材・文/久我裕紀