■連載/ヒット商品開発秘話
日本でも広く知られるようになってきたスペインの揚げ菓子「チュロス」。長い上に油で揚げないとならないので家庭でつくるのはやや面倒だが、いま家庭で簡単につくれることから評判なのが、日清製粉ウェルナの『Smart Table ミニチュロス』(以下、ミニチュロス)である。
2022年9月に発売された『ミニチュロス』は、1本約10cmで1袋6本入り。オーブントースターもしくはオーブンで焼くだけでできる。中にフィリング(中に詰める具材)を入れたのが特徴だ。
現在、チョコソース入り、カスタードソース入り、いちごクリームソース入り、北海道産小豆のこしあん入りの4アイテムをラインアップ。発売から2023年7月31日時点で約1000万本が販売されている。
Smart Table ミニチュロス チョコソース入り
Smart Table ミニチュロス カスタードソース入り
家庭用冷凍食品の新たな柱に
企画されたのは2021年6月。背景には、コロナ禍で家庭用冷凍スナックの需要が伸びたことがあった。
「おやつや朝食、在宅ワークの合間の軽食などと、様々なシーンで食べていただけるものを考えました」
このように明かすのは、プロダクトマネジメント統括部第三部ディレクショングループの遠藤駿氏。チュロスに着目したのには、大きく3つの理由があった。
第1の理由は、チュロスが徐々に身近になってきたこと。テーマパークや映画館だけではなく大手ファストフードチェーンもチュロスを期間限定で販売したり、レシピも広く知られるようになったりしていた。
第2の理由は、業務用チュロスのノウハウが生かせること。同社は以前から業務用冷凍食品でチュロスを開発・製造しており、テーマパークや映画館などに向けて販売している。業務用の開発・製造で培ったノウハウを生かすことができた。
第3の理由は、大きな差別化ポイントを持っていたこと。業務用の特徴であるサクッとした食感が他社にはマネしにくく、ほぼ競合が存在しなかったほど。家庭用でも他社が簡単にまねできないサクッとした食感は大きな差別化ポイントになり得た。
会社としても期待は大きく、『ミニチュロス』を家庭用冷凍食品事業の新たな柱に育てたいという想いがあった。プロダクトマネジメント統括部第三部ディレクショングループ グループリーダーの菊池和哉氏は次のように話す。
「当社の家庭用冷凍食品事業の主力商品はパスタです。それ以外の商品も育てて伸ばしていきたいという想いから、これまでも新しい商品や事業の種を探してきました。市場や自社の強みなどを分析する中でこれから育つ可能性を秘めていたのが、チュロスでした」
短くして小さな子どもでも食べやすく
チュロスは油で揚げてつくるが、簡単に調理できるようオーブントースターもしくはオーブンで焼いてつくれるようにした。ただ、チュロスは長いものになると40cmほどある。短くしないとオーブントースターやオーブンに入りきらないことから、ミニサイズにすることにした。
「それに、家庭だと大人だけではなく子どもも食べることがあります。小さな子どもでも食べやすくするためミニサイズにすることにしました」と遠藤氏。消費者調査でも短いものが支持を集めていたという。
約10cmというサイズは、オーブントースターやオーブンで焼きやすいこと、食べやすいことのほか、フィリングとのバランスの良さから決まった。
フィリングは差別化の観点から使うことにしていた。チュロスは通常、揚げたものに砂糖をまぶすが、家庭でやるには面倒でキッチンを汚してしまう。消費者調査でも、砂糖をまぶしたものは「食べるときに手が汚れる」といった不満が確認できたことから、フィリング入りにはニーズがあるという確信を得た。