洋食文化の浸透や食の簡便化ニーズの高まりにより、国内の消費が落ち込み続けてきた水産業界。コロナ禍での内食回帰による缶詰や瓶詰、冷凍食品の需要に加えて、コスト増を受けた値上げの実施や飲食店向け需要の持ち直しなどにより、景況感は回復傾向にあった。
ところが、東京電力福島第一原子力発電所で処理水の海洋放出が始まったことを受け、8月24日に中国が日本の水産物の輸入を全面的に禁止する対抗措置を発表。
また、香港も10都県からの水産物の輸入を停止した。日本の水産物輸出額の約4割を占める中国・香港の禁輸措置から2カ月が経過し、水産物の価格下落などを含め関連業界への影響が懸念される。
そこで帝国データバンクでは、水産関連業界を取り巻く環境や景気DI の動きを調査した。
直近ではコスト高騰や禁輸措置で悪化
水産関連業界(1)の景気DIは、2019年初は全産業の景気DIを大きく下回り、新型コロナへの緊張感が高まり始めた2020年4月には19.1まで急落した。
その後は内食需要や年末需要に支えられ、全産業の景気DIを下回る水準にとどまり続けたものの、格差は徐々に改善傾向を示してきた。
直近の動向をみると、2023年3月はマスク規制の緩和にともない消費マインドが変化、前月比5.5ポイント増の39.1と大きく改善した。
新型コロナが5類へ移行した5月には41.1と、2016年4月以来7年1カ月ぶりに40台を超え、7月まで5カ月連続で改善した。
この間、コロナ前には9ポイント程度あった全産業の景気DIとの差は、5ポイント程度にまで縮まった。
魚価の上昇や円安による輸出増、飲食店向け需要の回復などが追い風になり、企業からは「外食店の食材発注が増加している」(生鮮魚介卸売、山口)といった声が聞かれた。
※(1)水産関連DIは「まき網漁」「水産缶詰・瓶詰製造」「水産練製品製造」「冷凍水産食品製造」「乾物卸売」「生鮮魚介卸売」などの景気DIから算出
しかし、食用油などの各種原材料、空き缶・パウチなどの容器包装資材、エネルギー価格・物流費など様々なコストの上昇により頭打ち感がみられたところ、中国の禁輸も加わり、2023年9月のDIは40.5と2カ月連続で悪化した。
企業からは「円安による原材料価格の高騰、電気料金の異常な高値、また人手不足による人件費の上昇などマイナス要因が多い」(水産練製品製造、島根)、「加工原料不足および消費低迷に加えて、処理水問題での風評被害もあり業況は厳しい」(冷凍水産物製造、岩手)といった声が聞かれた。