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国産初の道路清掃作業車のEV化と自動運転化に挑む先進企業「豊和工業」の現場力

2023.10.24

「ストリートスイーパー」という道路清掃作業車のお話である。ストリートスイーパー(以下・スイーパー)は左右の側に配されたブラシが回転し、路肩のチリやゴミを掃いて車両の真ん中に寄せ、後部で回転する主ブラシがそれらをかき上げ、コンベアを経由し後部のゴミ箱に収集する。主に深夜に高速道路、国道、市町村道路で清掃作業に従事し、道路の美観と安全性を担っている黄色い車両だ。

このスイーパーをEV化した「EVタウンスイーパー」が今年度末に発売予定だ。さらに自動運転の「EVロボスイーパー」は来年、発売予定である。いずれも国内初の道路清掃作業車だ。

開発したのは愛知県清須市に本社を置く豊和工業株式会社(資本金約90億円、就業員約700名)。工作機械、油圧機器、火器は防衛装備品として小銃を自衛隊に納入。国内唯一の小銃メーカーといってもいい。この会社の特装車両事業部が製造するスイーパーの国内シェアは90%だ。

前編はこちら

他の事業部から電気のエキスパートを招聘

社長の塚本高広(69)が、スイーパーのEV化と、EVロボット化の開発の旗を振ったのは5年ほど前だった。

「脱炭素が加速する中、公共の仕事を担う車両のEV化は強く求められている。加速する少子高齢化で、職場環境の厳しい道路清掃員の担い手がいなくなる事態も考えられる。スイーパーのEV化も自動運転も時代の必然」

そんな社長の言葉に技術者もうなずき、特装車両事業部の設計課にプロジェクトチームが立ち上がる。だが、EV化の開発はほとんど経験がない。自動運転は未知の分野だ。特装車両事業部次長の小笠原安千佳や、設計課係長の安藤丈たちの試行錯誤は続いた。

EV化の要はバッテリーとモーターだ。パワーのあるモーターはすでに市場にあるが、走行と作業を担う大容量のバッテリーはメーカーに特注しても、出来上がったものはコストがかさみ使えない。さてどうするか。

一方で社長に就任した塚本は、各事業部の管理職の異動を促し、事業部間の壁を低くする試みを続けていた。事業部間の風通しは良好だ。早速、機械事業部から電気に詳しい2名がチームに合流し、試行錯誤の輪に加わった。

バッテリーを組み合わせる発想

「一個にこだわらず、バッテリーを何個が組み合わせてパワーを確保しましょう。そうすればコストも下げることができる」

世界中でEV自動車の開発にしのぎを削る中、特に中国、韓国、台湾の各メーカーのバッテリーとモーターの性能の向上は日進月歩だ。開発チームはスイーパーに見合うバッテリーを汎用品の中から選んだ。

EV試作2号機では車両の下部のスペースを有効活用して、1号機より容量の少ないバッテリーを14パック組み合わせる試みがなされた。これでさらにコストが軽減される。

塚本高広は言う。「開発会議でよく言ったことは、EVでもEVロボでも、今使っているものと比べて性能が半分だったり、コストが3~4倍したら顧客は評価しない。顧客望む使い勝手は何か、常にそこを考えて開発にあたってほしい」

そんな言葉が開発チームの面々に、刷り込まれている。

特装車両事業部次長の小笠原安千佳(写真左)、設計課係長の安藤丈(写真右)

従来の手法にとらわれないブレイクスルー

「どうしても気になるのは、油圧なんだ。エネルギーのロスが多すぎる」

これまでのスリーパーはエンジンの動力で油圧ポンプを回転させ、油圧の力でタイヤやブラシを稼働させていた。そんな従来の手法が技術者の頭にこびり付いている。だがバッテリーとモーターで油圧ポンプを回転させると、どうしてもパワー不足に陥る。

「いっそのこと、油圧を止めてしまえばいいんじゃないか」

知恵を出し合った末に、開発メンバーの一人がポツリとつぶやく。その言葉がブレイクスルーに繋がった。

「油圧を使わずに、どうスイーパーのブラシやタイヤを回すんだ?」

「電動モーターと直結にすればいい、モーターから直接パワーを伝えれば、油圧を使うよりエネルギーロスは少なくてすむ」

「そもそもモーターは一つなんて決まりはない」

EVスイーパーの時速は15㎞と低速だ。一般的なEV自動車の1/10程度の出力の小さなモーターで十分である。走行のモーターとは別個に、側面のブラシと主ブラシを稼働させるためのモーターを搭載し、油圧は最小限に抑え、パワーロスの問題をクリアした。

今年度末に市販される予定の「EVタウンスイーパー」は、小型特殊の緑色のナンバーを取得。大型のスイーパーが入り込めない市町村道や大規模駐車場、レジャー施設等での能力の発揮が期待されている。定価はおよそ1500万円。ちなみに同型に近い既存のエンジン式清掃機は約900万円だが、量産体制が整えばEVもおのずと価格は適正化する。

協業でEVのロボット化

開発したEVスリーパーの車体に、自動運転技術を搭載する、EVロボスイーパー開発も同時並行で取り組んでいる。

自動運転ロボットの開発・製造を手掛けるZMPとは商社を通して知り合った。豊和工業の本社の工場を訪れたZMPの社長、谷口恒は敷地内でのEV化したスイーパーの試作機のデモンストレーションに見入った。「インフラを担う厳しい現場こそ、ロボットの力が必要です」という塚本高広の思いに、谷口は「面白いですね」とうなずいた。豊和工業とZMPが協業して、EVロボスイーパーを開発することが決まった。

ZMPではすでに、開発した自動運転歩行速ロボットの実証試験が繰り返し行われていた。プロジェクトチームの小笠原安千佳は言う。

「スイーパーは路肩に寄って、ブラシを回しながらゆっくりと走る、それが自動で出来るのだろうか。でも実証実験で自動運転ロボが人を検知し、止まったり避けたりする動作をこの目で見て、なるほどこれならスイーパーの走りも、自動運転化できるだろうと思いました」

ZMPが開発した「認知」「判断」「操作」を担う自動運転OSの「IZAC(アイザック)」を搭載した「EVロボスイーパー」の試作機は現在、デモンストレーションを兼ねて実証試験が行われている。

“すべての答えは現場にある”

“すべては現場に答えがある”という信念を抱く塚本高広は言う。

「EVロボはこれからです。例えば今の搭載したカメラの解像度では、路肩のゴミの量がはっきりわからない。掃き残しがないよう仕事をさせるために、ゴミの量の判断と対応は欠かせません。自動でゴミ箱のゴミを捨てたり、自動充電したり、人がやる作業のほとんどを自動化するのが目標です。これから実証実験を重ねて、顧客の意見を反映させないと」

国産初のロボット搭載の自律走行EVスイーパー、「EVロボスイーパー」は来年、発売予定だ。全長272㎝の小型産業用清掃機で、工場や大型施設の清掃作業にあたる。プロジェクトチームの安藤丈は言う。

「清掃作業車の製造を仕事にしていますと、特に日本人はありとあらゆる場所が清掃対象となるのだなと実感します。自動で掃除をするロボットには、必ずニーズがありますよ」

取材・文/根岸康雄

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