打ち合わせではいつもハンバーグライス
河合 先生が好きなものは、ハンバーグライスでした。
荻野 ハンバーグライス?
河合 先生と打ち合わせをして食事に行くんです。食事に行った先で先生に「何をお食べになりますか」と訊くと「ハンバーグライス」って。メニューを見ると、ステーキとかボルシチとか、もっと今までに聞いたことがないような美味しそうなものがいっぱいあったんですが、それでも先生はハンバーグライス。しょうがないですから「ハンバーグライス二つとビール一本ください」というのがいつものパターンでした。
辻村 河合さんも同じメニューしか食べることが許されなかった?
河合 はい。おっしゃる通りです。
担当編集も驚かせた『ドラえもん』の新連載予告
荻野 先生は驚かすことが好きということで、驚かされたことは?
河合 これです。
荻野 予告?
河合 第一話の一か月前にいただいた予告。いただいた原稿は絵の部分だけなんです。驚いている男の子と、フキダシと、机とイス。周辺のデザインは私がやりました。「出た!」の文字も私が書いて貼り込んだ。
荻野 『ドラえもん』の予告なわけですよね。
河合 そうですね。なのに主人公は誰?って。この予告を作っているときに上司に厳しく怒られまして。「タイトルはんだ」「この男の子か?」「なんだ、この出たというのは」「予告でわかるのは来月号から新連載、これしかわからないだろう」と。よくこんな予告受け取ってきたなって本当に怒られました。いまにして思えば素晴らしい出来ですよね?
辻村 はい。伝説的な。皆様も伝説のやつかという感じだと思う。河合さんにお話をうかがってはじめて知ったのですが、河合さんが絵の周りを切られて貼ったりしてたと。ファンの中では藤子先生が「出た!」と新連載をするということだけを書いた。下に書いている「すごーく おもしろいんだ すごーく ゆかいなんだ!」というところ、このネームを河合さんが切ったんですか?
河合 そうです。先生にいただいたのは絵だけですから。
辻村 その横に「でも、どんなお話かは、正月号のお楽しみに!」って書いている。何も決まっていないのにすごく愉快ですごく面白い。
荻野 予告として発明ですよね。
河合 周辺を切って貼りこんでいる。セロテープで止めている。すごくいい加減なことをやったなあと。
辻村 これではじまったものが54年続く『ドラえもん』というのがすごいなと思います。
荻野 編集者として24歳でしたから、これがベテランだったらきっと先生も違うことをおっしゃった。河合さんが若かったことも、この「発明予告」に繋がっているかもしれないですね。
辻村 「発明予告」って良い言葉ですね。
※本記事では紹介できなかった映画、マンガ、ゲーム、イベント情報などは公式サイト「藤子・F・不二雄 生誕90周年記念 特設サイト」よりご参照ください。
取材・文/峯亮佑