公益財団法人 明治安田厚生事業団から、厚生労働科学研究班による全国の上場企業に対する調査の結果が公表された。本調査は、テレワークにおける健康課題や健康管理に焦点を当てた初の全国規模での企業調査で、2023年2~3月に実施された。本稿では、その概要をお伝えしていく。
研究の背景
コロナ禍により、企業では急速にテレワークの導入が進んだが、3年が経過して新たな健康課題の発生が懸念されている。
そこで、厚生労働省の厚生労働科学研究費によって立ち上げられた研究班が、全国の上場企業を対象に「テレワーク実施状況」「テレワーク従業員の健康課題」「テレワーク従業員に対する健康管理」等の実態を調査した。
テレワーク実施状況
・導入率は70%。テレワーク従業員の割合は、1~3割が38%で最多、次が7割以上で28%と、2極化の傾向
・テレワークの実施頻度は週2~3回が40%、週1回が18%で、出勤とテレワークを半々とする働き方が主流
テレワーク従業員の健康課題
・ テレワーク従業員の2大健康課題は「コミュニケーション低下」と「運動不足」
・一方、テレワークの健康への好影響を感じている企業も多く、「通勤の負担軽減・疲労軽減」「ワークライフバランス向上」「規則正しい生活」など多様な効果を実感
テレワーク従業員に対する身体活動促進・運動不足対策の取り組み
・テレワーク従業員の身体活動促進・運動不足対策について、「特に取り組んでいない」企業が62%と最多
・取り組んでいる企業では、オンライン型ウォーキングイベントやアプリ、動画等、デジタルコンテンツを活用した取り組みが多数
・自宅でのスタンディングデスク購入サポート等、テレワーク時の作業環境に配慮している企業は少数
テレワーク従業員に対する健康管理や健康づくり
・「労働時間の客観的把握」「長時間労働対策」「ストレスチェック」等、法定項目については、テレワーク対応が進む
・一方、テレワークに特化した健康管理や健康教育、作業環境確保等について対応できている企業は、一部にとどまる
・企業規模によって差があり、従業員数50人未満の小規模企業では、特に「長時間労働対策」「健康相談」「長時間労働者の医師の面接指導」についてのテレワーク対応が遅れている現状
研究代表者のコメント
本調査から、テレワークが多様な企業に広がっており、ハイブリッド勤務が主流となっている実態が明らかになりました。テレワーク従業員の健康課題としては、コミュニケーション低下と運動不足が懸念されている一方で、テレワークに対応した健康管理や教育、身体活動を促進する取り組みはあまり実施されていませんでした。
今後は、健康に配慮したテレワークの方法を明らかにするとともに、その普及を図っていく必要があると考えられます。
本調査ではテレワーク導入率が70%と、他の調査(※1)より高値でした。これは、調査対象が上場企業であることと、回答率が低いため、テレワークや健康づくりに積極的な企業がご回答いただいている可能性が高く、やや過大評価しているかもしれません。
また、健康課題については、企業側の認識であり、医学的実態や労働者側の意識とは相違があると推察されます。本調査と並行して、労働者への調査分析を進めており、その結果については、厚生労働科学研究費報告書(※2)をご参照ください。
※1:令和4年通信利用動向調査(総務省)では、企業のテレワーク導入率は51.7%と報告されている
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/data/230529_1.pdf
※2:厚生労働科学研究成果データベースにおける本研究班の分担研究報告
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202223016A-buntan3.pdf
https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202223016A-buntan7.pdf
調査概要
調査対象/全国の上場企業3,794社(有効回答率/数:18.0%/684社)
時期と方法/2023年2月~3月に郵送法による質問紙調査を実施
回答者/健康管理や健康づくりの担当者
調査項目/基本属性、テレワーク実施状況、テレワーク従業員の健康課題、テレワーク従業員に対する健康管理等
構成/清水眞希