……そしたら皆さん、面白かったんですよ。
最初に登場するのは、ある職務上のトラブルから警察を辞職した42歳のティム・ジェイミースン。彼がサウスカロライナ州の田舎町デュプレイに流れつき、警察で募集していた「夜まわり番(ナイトノッカー)」の臨時仕事につくエピソードからこの長い物語は滑り出します。
次に登場するのが、ミネソタ州のミネアポリスに暮らす12歳のルーク・エリスです。平凡な両親のもと生まれたのに、優秀な子供を集めた特待学童専門校に通う天才少年。ルークにはずば抜けた頭脳以外にも特殊能力があって、それが小さな念動力。大学進学適正試験(SAT)のやすやすパスして、マサチューセッツ工科大学の入学内定を勝ち取ったルークだったんですが、ある夜、3人の不審な男女に拉致されてしまうんです。
連れられていった先は「研究所」と呼ばれる施設。そこにはルークと同じように自宅から拉致された少年少女が集められていて、子供たちの共通点は「テレキネシス(念動力)」か「テレパシー」の超能力を持っていること。
ルークが黒人少女のカリーシャや反抗的な少年ニック、強力なテレパシーの持ち主である10歳の少年エイヴァリーらと仲良くなっていく過程を描く中、この施設が子供たちに何をしているのか、子供たちにその能力で何をさせようとしているのかが、じょじょに明らかになっていく展開が見事。「これよ、これ! ページを繰る指を止めさせない、これがキングの真骨頂なのよっ」というページターナーぶりが堪能できる上下巻なんです。
さて、そうしたルークらの物語に、最初の登場人物であるティムの物語がどう合流するのか。キーになるのは、小説内で幾度か繰り返されるこの言葉。「大きな出来事でも、動きの軸になるのは小さな蝶番だ」。
大きな出来事が何なのか。小さな蝶番は、誰が、どんなエピソードが担うのか。それはこれから読む皆さんが楽しむところ。粗筋番長を自称するトヨザキですが、この作品に関しては自粛いたします。わたしの印象としては、キングの代表作のひとつ『IT』(文春文庫)とディーン・R・クーンツの傑作『ウォッチャーズ』(文春文庫)の魅力を併せ持った読み心地。褒めすぎかなあ。や、褒めすぎじゃないでしょー!
最後にアドバイスがひとつ。本を開くのは休日の前夜からにしたほうがいいです。ルークが施設に連れ去られて以降は、読むのを途中でやめるのが「苦痛」といっても過言ではないほど難しいので。
文/豊崎由美(書評家)
『沢蟹まけると意志の力』や『妻の帝国』などの著書で知られる小