デロイト トーマツ グループからデロイトが2023年1月~2月に実施した世界調査「LGBT+ Inclusion @ Work: A Global Outlook」の日本版が発表された。
本調査は、世界13か国でさまざまな業界の組織に属する5474人のLGBT+ (Lesbian、Gay、Bisexual、Transgenderなど) 当事者を対象に、職場で当事者が日々直面する現実や、組織における取り組みがどのように機能しているかなどを把握し、組織が抱える課題を示すことを目的として行ったものだ。
なお、本グローバル調査は2022年から実施されているが、日本版の公開は今回が初めてであり、日本版レポートでは、調査対象のうち日本で働くLGBT+当事者425人の回答から示された傾向やグローバル平均との比較をまとめている。
日本の組織における取り組みは、当事者にとって十分なレベルには程遠い
自身が所属している組織のLGBT+インクルージョンへの取り組み状況について、「組織内・組織外ともに取り組みを行っている」と回答した割合は、日本は5%(グローバル35%)だった。
また、「組織内・組織外ともに取り組みを行っていない」と回答した割合は、グローバル43%に比べ日本は90%と、50ポイント近い差が生じている。
日本はLGBT+インクルージョンに関する取り組みがある組織で働いている当事者が10人に1人にとどまり、所属組織が取り組みを全く行っていないと当事者が認識している割合が、グローバルに比べて高いことが示された。
グローバルに比べ、職場でのカミングアウトのしづらさが目立つ日本
日本の回答者が、職場において「誰にでもカミングアウトができる」と回答した割合は20%であり、グローバル(43%)の半分以下のポイント数だった。
一方で、日本の回答者のうち27%が、職場で「誰にもカミングアウトはできない」と回答しており、グローバル(14%)の約2倍のポイント数となっている。
職場でのカミングアウトについては、日本・グローバルともに、上位の職層であるほどLGBT+当事者として自身のセクシャリティを公表しやすいという傾向が見られる。
しかし、どの職層であっても、日本の当事者はグローバルに比べて「カミングアウトをしている」と回答した割合が低く、リーダー層であっても、カミングアウトをしている割合はグローバルと比較して非常に低くなっている(グローバル:51%、日本:29%)。
また、本調査では、カミングアウトに最も抵抗を感じないのは親しい同僚、次いで直属の上司というグローバル傾向が示されたが、この傾向は日本も同様だ。
しかしながら、グローバルで最も「抵抗がなくオープンである」と回答された(59%)間柄の「親しい同僚」であっても、日本では「抵抗がなくオープンである」と答えた割合は26%にとどまり、「抵抗がありオープンにはしていない」と回答した人が20%(グローバル:9%)だった。
組織内における立場や、相手との関係性にかかわらず、日本の職場においてカミングアウトはしづらい状況であることが推察できる。
日本の組織におけるアライシップは、未だ当事者を支えるレベルに至っていない
「組織内のアライシップ(※1)は、カミングアウトへの一助となっているか」という問いに対しても、グローバルは「カミングアウトの一助となっている」と回答した割合が61%だったのに比べ、日本では23%にとどまっている。
組織におけるアライシップは当事者にとって有意義なサポートになり得ることが2022年調査において示されたところ、「日本の組織におけるアライシップは、未だ当事者を支えるレベルに至っていない」という現状が示唆された。
※1 LGBT+など性的マイノリティについて理解し、応援・支援をすること
認識されていない当事者が多く組織内にいることを大前提にLGBT+インクルージョン施策を推進すべき
本調査では、LGBT+インクルージョンに関する取り組みがある組織で働いている日本の当事者が10人に1人程度であることが明らかになった。
LGBT+インクルージョン施策の実施については、組織規模による差異が非常に大きく、従業員数が少ない組織ほど未実施であるという傾向があるが、平均すると施策のある企業は10.9%という厚生労働省の2019年調査と比べ進展があったとはいえない結果だ。
組織は「当事者が実際に求めている施策であるか」という点を重要視して、LGBT+インクルージョンの取り組みを強化していく必要がある。
セクシャリティを誰に打ち明け、どのように生きるかは個人の意思や選択によるものであり、カミングアウトは「しなければいけないもの」ではない。
日本は現時点で同性婚が法制化されていないことや、その他多様な観点においてもLGBT+インクルーシブな社会環境とは未だ言い難いことなどから、カミングアウトをする意義がないと感じている当事者も多くいる。
しかしながら、「カミングアウトをしている当事者がいない=組織内にLGBT+当事者がいない」ということでは決してなく、組織はカミングアウトしない層が組織内に多く存在していることを前提とした制度設計や、当事者が差別や偏見といった壁で苦しむことがないインクルーシブな風土の醸成を行うことが必要だ。
構成/清水眞希