日本能率協会総合研究所(JMAR)は、多発する品質不正の要因の一つと考えられる従業員の品質意識に注目。その実態を明らかにすることを目的に「従業員の品質意識」アンケート調査を実施した。
日本企業の品質を現場から支える層から見て品質維持は困難に
当調査の対象者である上場企業の製造業の現場の従業員(生産・製造または開発部門の係長・一般社員)では、最近5年間の日本企業の品質とその国際競争力について、ともに「変わらない」が4割に達している。
しかし、「低下している」がともに約3割に達しており、「向上している」を上回っている。したがって、日本企業の品質を生産・製造や開発の現場から支えている従業員から見て、品質維持が難しくなりつつあることが推察できる。
生産・製造や開発現場の従業員の5割が最近5年間に自身の勤務先で品質問題を体験
最近5年間に自身の勤務先の会社で品質問題があった従業員が5割に達していることがわかった。
さらに勤務先の顧客や取引先で4割、勤務先の同業他社でも4割弱あり、自身の勤務先とあわせると3つのいずれかで品質問題があった人は6割に達しており、品質問題の発生が身近になっている。
実際に品質問題が生じた場合に、現場での報告は品質保証部門責任者の認識ほど迅速に行なわれていない
「品質問題が生じた場合」について、品質保証部門責任者の9割弱が「相談や報告が迅速に行われる風土」と回答している(参考/2022年「ESG時代の日本企業における品質意識とマネジメント」アンケート調査)
しかし、生産・製造や開発現場の従業員では、「職場では迅速に報告・対処」への肯定層は6割にとどまっている。品質保証部門責任者の認識とは顕著な乖離があり、問題が起こった場合は、責任者の認識ほど現場で迅速な報告が行われていないことがわかる。
生産・製造や開発現場の従業員の25%が自身の勤務先における今後の品質問題の発生を懸念
勤務先での今後の品質問題の発生について、「絶対に起こらないと思う」への肯定層は3割程度にとどまっている。
これに対して否定層は25%に達しており、肯定層との割合に大差はなく、今後の品質問題の発生への懸念が見られる。
特に最近5年間に勤務先で品質問題がある場合は顕著で、否定層が肯定層を僅かに上回っており、一度問題を起こすとそれを改善しきれず、繰り返すことへの懸念が推測できる。
生産・製造や開発現場の従業員の7割が品質を重視
しかし、職場の品質意識はあまり変わらず、「向上している」という品質部門責任者の認識とは顕著に異なる
品質の維持・向上について、「勤務先の存続(生き残り)には重要」は肯定層が7割に達しており、品質の重要性は多くの従業員に認識されていることがわかる。
しかし、自身の職場における品質意識の変化については、3年前と比較すると「変わらない」が6割近い。10年前との比較では「向上している」が約4割だが、3年前との比較では2割強にとどまっている。
前述のとおり、品質問題が身近で発生し、今後の品質への懸念も見られるにもかかわらず、生産・製造や開発の職場における品質への意識はあまり変わっていない。
それに対し、品質保証部門責任者は勤務先の従業員の品質意識について、「向上している」と認識している。それは上記の現場の従業員の約2倍に達しており、その差は顕著だ。
前述した品質問題の報告でも両者の乖離が見られており、生産・製造や開発の現場には、品質保証部門責任者が捉えていない問題が他にも潜んでいる可能性もある。今後は、現場の実情をしっかり捉えて対応していく必要がある。
調査概要
調査名称/「従業員の品質意識」アンケート調査
調査対象/製造業の上場企業の生産・製造部門または開発部門に勤務する係長、一般社員
調査期間/2023年6月22日~6月23日
調査方法/インターネット調査
企画・実施/株式会社日本能率協会総合研究所(JMAR)
構成/清水眞希