日本で最初の営業用電車が京都(京都電気鉄道:七条~伏見町下油掛)で開業して以降、関西の鉄道は「私鉄王国」とも呼ばれる独自の鉄道文化を築いてきた。関西は、都市間で並行する鉄道路線も多く、乗客の争奪戦を繰り広げながら発展することになるが、黎明期には資本家たちが我先にと鉄道を計画し、さながら路線の争奪戦も繰り広げられていた。
そのとき打ち出された鉄道計画のなかには、実現して今も人々にとって欠かせない路線もあれば、工事に着手したものの諸事情で頓挫したものや構想のみで実現せず夢物語に終わった「未成線」も多くある。しかし、鉄道は住まいや暮らしに大きく関わっており、「実現していれば便利だったかもしれない」未成線も多いのではないだろうか。
不動産・住宅情報サービス「LIFULL HOME’S」はこのほど、関西の主要な12の「未成線」について、京都府・大阪府・兵庫県在住の20~60代男女1,100人にアンケート調査を実施。そのなかでも得票数の多かった「実現してほしかった未成線」TOP5を発表した。
リニアで関空が近くなったかも? 実現してほしかった未成線ランキング(関西編)
【1位】大阪市中心部と関西空港が10分台で結ばれる「関空リニア構想」
アンケート調査で最多の393人が「実現してほしかった」と回答(複数回答)したのが、大阪市中心部と関西国際空港をリニアモーターカーで結ぶ構想だ。実現すれば、現在30分以上かかる大阪中心部と関西空港を10分台で結ぶとされていたが、新たに関空アクセスを担う新線「なにわ筋線」の計画が進み、この構想が具体化することはなかった。
<アンケートに寄せられた声>
・空港の利用が遥かに便利になる
・海外から訪日した方に日本の技術をアピールできる
・関空専用路線で運用してもらえればアクシデントや事故による遅延が減りそう
【2位】大阪から有馬温泉がスムーズに「箕面有馬電気軌道(現:阪急電鉄)有馬線」
阪急電鉄の前身である箕面有馬電気軌道はかつて、宝塚と有馬を結ぶ鉄道を計画していた。有馬には日本三古泉とのひとつ「有馬温泉」があり、大阪からは電車で神戸または三田を経由してアクセスできるが、この路線が実現していたら、大阪から有馬温泉へ直線的にアクセスできていたことになる。
なお、箕面有馬電気軌道は箕面や宝塚温泉などへの遊覧客を乗せる鉄道として建設されたが、沿線の住宅開発を成功させたこともあり、有馬線の計画は取り下げた。
<アンケートに寄せられた声>
・有馬温泉は近いが、なかなか行きにくい
・宝塚方面からも行けると便利で需要がありそう
・既存路線は通勤色が強く観光気分にならない。新線に観光特急を走らせて欲しい
【3位】北摂エリアを一周し、新大阪駅へ向かう「阪急新大阪千里環状線」
阪急宝塚本線や京都本線の混雑緩和や、新幹線が発着する新大阪駅へのアクセスを目的に計画した路線によって、大阪北部の千里ニュータウンや新大阪駅を循環する環状線の計画が形作られた。実現していれば、北摂エリアの東西方向の移動や、阪急沿線から新大阪駅へのアクセスが便利になっていたと考えられる。
既にほとんどの区間で鉄道の敷設に必要な免許が失効し、環状線は未成線となったが、今も一部区間の免許が維持されており、2031年に「新大阪連絡線」の開業を目指している。
<アンケートに寄せられた声>
・ずっと十三から新大阪に行けたらいいのにと思っていた
・阪神間から新大阪駅に行く場合、かなり遠回りしている。阪急の計画では、移動時間を大きく短縮できる
・北摂地方では、それぞれの路線が繋がっていないので、繋がることのメリットが大きい
【4位】京阪電車が梅田に乗り入れる「京阪梅田線」
かつて大阪市中心部への乗り入れを目指していた京阪電車は、梅田への乗り入れを計画していた。実現していれば、大阪のベッドタウンである京阪沿線から、地下鉄に乗り換えることなく大阪の中心地・梅田へアクセスできていたことになる。
<アンケートに寄せられた声>
・今は淀屋橋駅で乗り換えが必要であり、徒歩でも中途半端な距離
・京阪電車から乗り換えなしで梅田まで行けるのは、とても魅力的
・大阪から京阪電車で京都に行きたい
【5位】新神戸からノエビアスタジアム神戸へ1本でいける「神戸市営地下鉄海岸線延伸」
2001年に開業した神戸市営地下鉄海岸線は、工場などが多く立地する神戸市の臨海部を結ぶ路線だ。元々は「新長田から和田岬、三宮を経て新神戸を結ぶ路線」として計画されていて、三宮・花時計前駅~新神戸駅が未成線となる。実現していれば、山陽新幹線が通る新神戸駅とつながるため、県外からの出張やスポーツ観戦に便利だったかもしれない。
<アンケートに寄せられた声>
・現在の新神戸駅の利便性が飛躍的に高まる
・ノエビアスタジアム神戸に行く機会が多いから便利
・新神戸駅と大規模な工業地帯を結ぶ路線があると、ビジネスや通勤での利便性が向上すると思う
【6位以下】大阪通勤圏を大きく広げていたかもしれない未成線も
鉄道は都市の計画や発展と密接にかかわっており、鉄道が開業することで人々の動きが大きく変わることもある。TOP5にランクインした未成線以外にも、大阪市南部の東西を繋ぐ「大阪市営地下鉄敷津長吉線」や西神ニュータウンと西明石駅を結ぶ「西明石・西神線」、生駒山地を貫いて大阪の枚方と奈良の生駒を直結する「信貴生駒電気鉄道生駒線」といった、現在はバス移動や鉄道では遠回りが必要な箇所を繋げる路線が計画されていた。
また、滋賀の近江鉄道・信楽高原鐵道と京都の京田辺を繋ぐ「びわこ京阪奈線」や、大阪の貝塚市内で完結している水間鉄道を、犬鳴山温泉付近を通り和歌山の粉河(こかわ)まで繋ぐ「水間鉄道粉河延長線」など、大阪通勤圏を大きく広げていたかもしれない未成線も存在する。もし、これらがひとつでも実現していたら、街も現在とはまた少し違った姿をしていたかもしれない。
<調査概要>
調査方法:インターネット調査
調査期間:2023年7月11日~7月13日
対象者:京都府、大阪府、兵庫県在住の20~60代男女
有効回答数:1,100人
出典元:LIFULL HOME’S
構成/こじへい