「ピラティス」と聞いて、どんなイメージが浮かぶだろうか。「おしゃれな若い女性が美容のためにやっているもの」? それとも「ヨガみたいなもの」? 残念ながら、どちらも不正解。ピラティスとは、心と身体のコントロール術を身につけて、自分のパフォーマンスを最大限に高めるためのもの。つまり、自己管理能力が求められるビジネスパーソンにこそおすすめのエクササイズなのだ。
実際のところ、ピラティスに通う男性は徐々に増えつつあり、「身体に意識が向くようになり、集中力が高まった」「体幹が鍛えられて呼吸が深くなった。気づけばゴルフのスコアもアップ」などの声が寄せられている。
そこで今回は、業界大手の「zen place」の創業者であり代表取締役の尾崎成彦氏に、ピラティスの効能について伺った。
ドイツ人男性がリハビリを目的に開発
ピラティスを考案したのは、実は男性。創始者のドイツ出身のジョセフ・ピラティス氏は、幼少期に病弱だったことから、身体と心と精神のバランスについて30年以上研究。彼が第一次世界大戦時、負傷した兵士のリハビリのために開発したのがコントロロジー(=コントロール学)、現在のピラティスだった。心と身体を不自然な状態から本来のナチュラルな状態へと戻していくためのエクササイズで、解剖学に基づいており、老若男女を問わず、安心して行うことができる。
実際に筆者も初めて体験してみたところ、驚いたのが、エクササイズの動きがものすごく小さいこと。「え? これで本当に効くの?」と疑ってしまうほどだ。ところが、翌日は見事に筋肉痛に。しかも、普段は意識したことのないような部分に鈍い痛みを感じるという、なんとも不思議な感覚だった。それから2回、3回と通ううちに、足裏で重心を感じやすくなるなどのうれしい変化を感じるように。
微細な動きに意識を向け、脳を本来の状態に戻す
「zen place」の資料によれば、ピラティスでは微細な動きに意識を向けることで、心身の司令塔である脳を本来の状態の戻していくという。それにより、脳と身体のクセがいったんリセットされ、身体そのものが本来の機能を取り戻していくというメカニズム。
「私たちは無意識のうちに、自分の身体を自分が使いやすいように使っています。動きも重心のかけ方も脳の神経回路も、ほぼ固定化されている。ピラティスのエクササイズでは、普段はほとんど意識したことのない細部の筋肉を使うので、脳に新しい刺激が与えられます。その結果、固定化された神経回路に集中的にかかっていた負荷が分散され、脳が本来の自然な状態に戻っていく、ということです」(尾崎成彦氏、以下同)
心のバイアスが外れ、前向きになれる
こうした脳の変化が好影響を及ぼすのは、身体だけではない。ピラティスを続けると、心にもポジティブな効果が表れるという。
そう聞いてふと思い出したのが、「zen place」のエデュケーターたちの人柄だ。彼らはピラティスの資格のなかでも最も取得難易度の高い「BASIピラティス」を保持しており、知識も指導力も驚くほどハイレベル。しかし、それ以上に驚かされるのが、彼らが人間的にも素晴らしく魅力的なこと。これって実は、ピラティスの恩恵だったりするのだろうか。
「脳神経系と免疫機能に働きかける動きが基本となっていることから、身体はもちろん、心も整っていきます。人間の思考はこの世に生まれた時点ではまっさらな状態ですが、周りの大人たちや環境、社会の影響によって考え方や価値観が形成され、身体と同様に固定化されていくもの。そういったバイアスが外れていくので、過去の失敗や未来への不安にとらわれることなく、あるがままの自分をポジティブに楽しめるようになっていくんです」
肉体面では全身のバランスが整って、より健康に。精神面では自他への偏見や思い込みがなくなり、心はいつも前向きに。さらには、身体を反射的に動かすのではなく、自分の意思でコントロールできるようになることから、自己管理能力も身についていく。
つまり、ピラティスを続ければ、ビジネスパーソンが先の見えない時代を生き抜くために必要な要素を、すべて手に入れられるというわけだ。