58歳頃に好奇心でパソコンを買って、エクセルと手芸を融合した「エクセルアート」を創始した若宮正子さん。81歳でアプリの開発を始め、17年に米国アップルによる世界開発者会議「WWDC 2017」に特別招待されたデジタルクリエーターでもある。88歳の現在も「発展途上」という若宮正子さんに、次世代ITについて聞いてみた。
AIはお友達になってもらう相手
――講演で全国を飛び回っている中、新刊書『昨日までと違う自分になる』(KADOKAWA発行、定価1300円+税)で新たなファンを獲得中です。
若宮先生 じぶんが伝えたいことを自分の言葉で語っているのがこの本の素晴らしいところかなと思っています。
まだまだ未熟で「老成」した高齢者でなく「発展途上人間」だということ。歯を食いしばって「挑戦」しているわけではない、好奇心でやっているのだということを知っていただきたいです。AIも「挑戦する相手ではない、お友達になってもらう相手」だと思いますね。
ExcelArtは遊んでいるうちにできちゃった
――58歳頃、好奇心でPCを購入されましたが、当時は高価な機械をなぜ購入しようと思ったのでしょうか?
若宮先生 やっぱり「物好き」「好奇心が強いこと」が主たる理由と思います。PCは究極のおもちゃです。
そうご説明しても「親の介護」とかそういう深刻なことと結び付けられてしまうので困っているんですよ。
――新しい分野を学ぶのは若い人でも難しいと思います。
若宮先生 学ぼうと思ったのではなく、楽しみながら遊んでいるうちにExcelArtができちゃったのです。マクロも関数もさっぱりわからないですがそれでいいと思っています。
スパムメールかと思った一通のメール
――アップルの世界開発者会議「WWDC 2017」に招聘されました。
若宮先生 81歳でゲームアプリ「hinadan」を作ったら、「世界最高齢の開発者」として、その年の米国アップル社の世界開発者会議「WWDC 2017」に特別招待されました。
アップルから、突然メールが送られてきたら、びっくりしますよね。「私、騙されているんじゃないかしら、これはスパムメールかもしれない」なんて思いながら、もう最悪、パソコンが壊れてもいいや、と思ってメールを開いてみたんです。
そこには「招待するから、一緒にアメリカへ行きましょう」と書いてあったんですけど、ちょうど旅行の予定が入っていたから、最初はお断りしたんですね。
それに、(招聘される)理由がわからなかったのです。「あんたの作ったアプリは幼稚だから、審査は却下する」とかなんとか、そんな話かと思ったら、先方でどうしても会いたいと言っておられる方がいると言われて、どなたかと伺ったらCEOのティム・クックさん。一番偉い人にそこまでおっしゃられたら、もう行くしかないと思って、予定を変更してアメリカに行きました。
それ以来、あれよあれよと言う間に、世界的な有名人になっちゃって、ものすごく注目を浴びるようになりました。でも、実はティムさんに会う前にCNNの取材を受けたのが、全ての始まりでした。新刊書でもその当時のいきさつについて紹介しています。
シリコンバレーというのは、「特別な街・アメリカにありながらアメリカの方の街ではない、テクノロジーの街」でした。世界中から多種多様な方々の集まっている街。また老人の少ない街です。その存在に衝撃を受けましたね。
ネット縁とボランティア縁が孤独解消に
――高齢者のデジタルリテラシー(デジタル技術を理解して適切に活用するスキルのこと)についてコメントをお願いします。
若宮先生 (高齢者のデジタルスキルは)やっぱり、あったほうがいいと思います。世界が広がります。
お友達もかつては「血縁」「地縁」「職縁」と言いましたが、少子化で「血縁は細るばかり」。「地縁も高層マンションではなかなか」「職縁も仕事の多様化で限界がある」。だからこれからは「ネット縁」と「ボランティア縁」が孤独解消に大切だと思いますね。
少子高齢化では高齢者のサポートする人が少なくなりますよね。 デジタル、テクノロジーが高齢者を支えてくれる時代になると思います。