1999年の第14回日本ゴールドディスク大賞洋楽部門でソング・オブ・ザ・イヤーに輝いた『Eyes On Me』(『FF8』テーマソング)をはじめ、歴代シリーズからは数々の名曲が生まれてきた。ゲームの名場面を彩る音楽の魅力について作曲家・植松伸夫さんが、音楽クリエイター・前山田健一さんとともに振り返る。
絶妙なタイミングで流れる音楽が涙を誘う
前山田 プレイした中でも印象的なのは、スーパーファミコン版として初めて発売された『FF4』です。セシルとカインが出会い「さぁ行くぞ!」というシーンで、壮大な音楽が流れるのを覚えています。「スーパーファミコンになると、これだけの音楽の表現ができるぞ!」という証明を見せつけられた気がします。ほかのゲームクリエイターにどれだけプレッシャーを与えたのかというほどの完成度で、衝撃を受けました。
──当時、よく『ファイナルファンタジー』の曲を〝耳コピ〟して弾いていたそうですが、印象に残っているのは?
前山田 例えば「ドレミソ、ドレミソ、ドレミソ~」とオクターブが上がっていく『プレリュード』。ピアノを弾く人なら演奏したくなる曲です。それと『FF5』の『はるかなる故郷』はケルティックな曲調が好きで、よく弾いていました。ピアノを奏でるだけで一気に違う世界に引き込まれて、僕の住む大阪市住吉区が知らない世界線になる(笑)。「音楽って、すてきだな」って思いました。
──『ファイナルファンタジー』の楽曲を担当されていた当時は、植松さんも実際にゲームをプレイしていたようですね?
植松 発売される前のおよそ2か月間、自分が制作した音楽のバグを探すことも兼ねて、朝から晩までプレイしていました。感動的なシーンに音楽がピッタリ合っていると、すごくうれしかったです。「盛り上がってくれるかも」と確信が持てました。
前山田 シーンと曲がピッタリと合っているといえば『FF6』で流れる『仲間を求めて』ですね。
植松 そう! (曲の)入り方とかね。何度泣いたことか(笑)。『ファイナルファンタジー』のシナリオを書く人たちって泣かせたがるんです。
前山田 僕はあまりゲームがうまくなくて『FF6』ではシドというおじいちゃんを死なせてしまうんですけど、彼を追いかけるようにセリスは崖の上から身を投じるけれど死にきれない……。そんな涙腺崩壊なエピソードを経て、新しい飛空艇ファルコンを手に入れ、マッシュ、エドガー、セッツァ―とともに「行くぞ!」という時に『仲間を求めて』が流れるんです。音楽の入るタイミングが、すごく映画的だなと思いました。
植松 スクウェア・エニックスのRPGは1本道のストーリーがしっかりと決まっていて、映画っぽく作られていますよね。『ファイナルファンタジー』の生みの親である坂口博信さんも、1作目の時から「映画みたいなものを作りたい」と口にしていましたからね。
「感動的なシーンとピッタリ合っているとうれしかったですね」
作曲家 植松伸夫さん
1959年生まれ。1986年にスクウェア(現スクウェア・エニックス)に入社。『ファイナルファンタジー』シリーズでは1作目から楽曲制作を担当。そのほかのゲーム楽曲も数多く手がける。最近は自身が率いる新プロジェクト「植松伸夫conTIKI SHOW」のライブ活動も積極的だ。
珠玉の名曲が収録された『Modulation –FINAL FANTASY Arrangement Album』
『ビッグブリッヂの死闘(FF5)』『ティナのテーマ(FF6)』『オープニング~爆破ミッション(FF7)』『ザナルカンドにて(FF10)』をはじめとする『ファイナルファンタジー』の名曲を、植松伸夫自らが〝Modulation(変調)〟したアナログレコード。封入特典の楽曲(MP3)ダウンロードコードにより、デジタル環境でも鑑賞できる。4950円。
世界を熱狂させるオーケストラコンサート
──『ファイナルファンタジー』の楽曲といえば「Distant Worlds music from FINAL FANTASY」というオーケストラコンサートのワールドツアーによって世界中で披露されるなど、多くの人から高く評価されています。
植松 ゲーム音楽を題材にしているコンサートだから、あまり知られていないかもしれませんが、これまでに15年あまり継続しているのは結構すごいことですよね。2005年に米国ロサンゼルスで開催した『ファイナルファンタジー』初の海外オーケストラ公演では、オーケストラのコンサートなのに、スタンディングオベーションが起きるわ、曲の途中で叫び声が出るわ、とても驚きました。ロックコンサートみたいに観客が「オ~!」と盛り上がる瞬間もあって「これはおもしろいな」と。
──海外の公演で特に人気があるのは、どんな曲なのでしょうか?
植松 例えば、ファンが熱狂的な国のひとつであるフランスの場合「『ザナルカンドにて』(『FF10』)は必ず演奏してほしい」という依頼を受けることがありました。それと『FF7』の『片翼の天使』は、オーケストラコンサートのアンコール曲として決まっている定番曲。僕も一緒に合唱に混じって歌いますから(笑)。
『ファイナルファンタジー』の音楽は唯一無二
──『メインテーマ』も忘れてはならない名曲のひとつですよね?
植松 『メインテーマ』は1作目のオープニング曲として作ったものなので『FF2』では流れないんです。けれど、メロディーが好きだったから『FF3』で復活させて「『メインテーマ』にしちゃえ」と。その後も「対旋律(主旋律を効果的に補う別のメロディー)はこっちのほうがいいかな」と思って書き換えたり、『FF7』のあたりでは8小節ぐらい後半をのばしてみたり、別のメロディーを付けたりしていきました。集大成と言えるのが『FF8』のバージョンです。2021年に行なわれた東京2020オリンピックでは開会式に採用されて、流れるタイミングが完璧でしたね。カザフスタンのきれいな衣装をまとった美しい選手たちが、計ったかのように登場するという。そういった演出も含め、いいところで使ってもらって本当によかったし、誇らしかったですよ。
前山田 まさにゲームの世界のように異国情緒があって、すごく盛り上がりましたよね。『ファイナルファンタジー』の楽曲って、圧倒的な世界観の広さとともに、胸を締め付ける〝バインド力〟がある。誰もが持ってる故郷や両親への思いがなぜかあふれてくるほど、もう本当に唯一無二なんです。心に直接入ってくる感じがするし、人間ドラマを深く掘り下げるような物語の設定や、心に傷を負うキャラクターの話をすごく立体的にしている。捨て曲は全くないし、どんなに短くてもインパクトがあるというのは、そういうことなんじゃないかなと思います。
植松 『ファイナルファンタジー』の楽曲は、僕にとって〝自分史〟のようなもの。今でも当時の曲を聴き直すのは気恥ずかしいけれど、目を背けられない存在です。今にして思えば、音大を卒業しているわけでもなく、有名な音楽家に師事したわけでもなく、ピアノが上手に弾けるわけでもない僕を、スクウェアが音楽担当としてよく据えてくれたなと。坂口博信さんがご自身の勘を信じて、僕を採用してくれた運命をすごく感じます。いわばスクウェアという〝大学〟に入らせてもらって〝作曲学科〟を卒業した僕としては、この〝大学〟がずっと続いて優秀な若い人が育って旅立つ、すてきな母体であってほしいと思っています。
「世界観の広さと胸を締め付ける力を感じます」
音楽クリエイター 前山田健一さん
1980年生まれ。京都大学を卒業後、2007年から本格的な音楽活動を開始。2009年には提供楽曲がオリコンチャートで連続1位を獲得するという快挙を達成。ももいろクローバーZ『行くぜっ!怪盗少女』などの楽曲を手がけてきた。大の〝『FF』音楽〟好き。
前山田健一さんが編曲を担当した『ファイナルファンタジーXIV』の挿入楽曲
『FF14』のルビカンテ討滅戦に採用された『Forged in Crimson ~紅蓮の求道者~』は、前山田さんが編曲を担当。『FF4』の『ゴルベーザ四天王とのバトル』をリミックスしつつ、男女混声のコーラスをフィーチャーした。本楽曲を収録した『FINAL FANTASY XIV: ENDWALKER – EP3』も各音楽配信サイトで好評配信中。
取材・文/編集部 撮影/干川 修 ヘアメイク/野尻七衣[前山田健一]
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構成/DIME編集部