2.視点(その2)業績面から見た上値余地
足元で急速に上昇している日本株だが、業績面から見た株価に割高感はそれほど感じられない。三井住友DSアセットマネジメントではTOPIXの一株当たり利益(EPS)について、今年度は169.5円、来年度は191.1円まで増加するものと試算している(図表3)。
これで6月2日のTOPIX終値を割った予想株価収益率(PER、株価を一株当たり利益で割った数値)はそれぞれ12.9倍、11.4倍となり、割高というには程遠い水準だ。
過去10年平均のTOPIXの12カ月先予想PERは、約14.5倍だ。これに三井住友DSアセットマネジメント予想EPSとNT倍率(日経平均をTOPIXで割った値)をかけると、日経平均の予想値は今年度末で35,497円、来年度には40,020円となり、4万円の大台が視界に入ってくる。
「いやいや、海外景気も不透明だし、PERはそんなに拡大しないんじゃないの?」という方もいるかもしれない。もちろんその可能性は否定しないが、PERを起点とした今後の上値余地は相応にあると思われる。
三井住友DSアセットマネジメント予想のEPSをもとに計算した今期のTOPIXの益利回り(PERの逆数、一株当たり利益を分子に、株価を分母に逆転させて計算する株の利回り)は+7.76%になる(図表4)。
年率+7.76%の複利(利益を再投資しながら運用する場合のリターン)で運用を続けると3年間のリターンは+25.2%に、4年間では+34.9%に達するので、日経平均は3年後には39,453円、4年後には41,746円まで上昇する計算になる。
日経平均が3万円を超えてからの相場には過熱感を懸念する声も少なくないが、こうした長期的な視点から株価水準を見ると、短期の値動きにはあまり過敏にならない方が良さそうだ。
3.視点(その3)脱デフレと名目GDP
「名目国内総生産(GDP)」という言葉をご存じだろうか。私たちがふだんニュースでよく耳にする「実質GDP」は、経済の実力を測るために物価変動による影響を取り除いたものだ。
一方、長く続いたデフレ傾向の終息を受けて今注目を集めているのが、こうした「物価」の影響を取り除かない、いわば素の数値である「名目GDP」の動向だ。
デフレ傾向の終息で、日本の名目GDPは拡大傾向にある。この名目GDPが注目を集めるのは、インフレ調整後の実質GDPよりも、企業の売上や利益をはじめとする「経済活動の規模」と、より密接な関係があるからだ。
例えば、2022年度の日本の税収は、国と地方の合計で70兆円に達する見込み。これは、コロナ禍前の2019年度の約58兆円から約2割も高い水準だ。まさにデフレ脱却による名目GDPの拡大が、課税対象となる企業の売上や利益、そして個人の収入に大きく影響した結果と言えそうだ。
このため、TOPIXの12カ月先予想EPSと名目GDPの推移をみると、両者は連動する傾向が強いことが確認できる(図表5)。
やや専門的な分析になるが、12カ月先予想EPSと名目GDPの関係を回帰分析と呼ばれる統計的な手法で分析すると、この2つの数字のつながりの深さが確認できる。両者の相関の強さを表す決定係数(相関係数の2乗)は0.8228と、一般に「極めて高い説明力がある」とされる0.8を上回っている(図表6)。
三井住友DSアセットマネジメントでは、今後の日本の名目GDPについて、堅調な個人消費や企業による設備投資の復活に加え、マイルドなインフレが続くことで、今年度は+3.1%、来年度は+2.0%の成長が続くと予想している。
このため、今年度と来年度のTOPIXのEPSは2桁の伸びが続くものと予想している。市場のコンセンサスは海外景気への不安もあって慎重な見方が多いようだが、デフレ脱却による名目GDP拡大のインパクトを過小評価している可能性もある。
今後、こうした市場コンセンサスが「見込み違いであった」として仮に修正されれば、株式市場は大きく上昇する可能性があるといえそうだ。
まとめに
日本株の上昇が続いている。足元では、3万円を超えてからの急ピッチな上げに警戒感が広がっているが、短期的な動きに目を奪われていると、投資判断を誤りかねないため注意が必要だろう。
今後期待される低PBR企業の経営改革や、名目GDPの拡大による企業業績の成長が続いた場合、日本株はさらに大きく上昇する可能性がある。
もしこうしたシナリオが現実になると、数年後には現在の株価水準も「単なる通過点であった」と懐かしく振り返ることになるかもしれない。
<解説>
白木久史氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社・チーフグローバルストラテジスト)
構成/こじへい