ファンコミュニティとSNSとの違いは場の治安が守られ、発言が歓迎されているという安心感
SNSにはテーマがなくどんな内容でも発信できるがゆえに「誰も求めていないかもしれない」「場違いかもしれない」「炎上するかもしれない」という意識が働くため、発信にはハードルが伴う。対してファンコミュニティは、公式のファシリテーターがトピックを提供したり、交流が円滑に進むように促してくれる「場」であることが特徴だ。
「『場』であることによって、ユーザー同士その場に参加している『仲間』という意識が働きます。また、公式がトピックを提供していることにより、公式から求められ、その場に守られているという安心感が生まれ、それが後押しとなってユーザーが発信しやすくなります。自分も場に還元しようという意識が生まれ、場に対する共感や主体的な関与の意識が『この場を提供してくれている企業』に対するロイヤルティにつながっていきます。
また、SNSは自分の好きなこと、共感できるものだけを集めて、次々に新しい情報に触れられる特徴を持ちますが、コミュニティはゆるやかな共感で関与・発信できる場であるため、意図せず自分と異なる多様な価値観に触れることもできます。クオンが運営するコミュニティには『適度な距離感がありながら、いろんな方の意見などが聞ける』『一つのことでもそれぞれにとってそれがどのような位置づけなのか違うし、そういう見方や考え方があるんだという発見につながった』という声が寄せられています」
さらに、匿名性が担保されていることも本音の言いやすさにつながっている。
「現実生活の交友関係でつながっているSNSでは話題によっては本音を言いにくい側面がありますが、ファンコミュニティは価値観でつながる場のため、むしろ本音が求められます。たとえば『歯周病コミュニティ』というものがあったとして、実名で交流しているアカウントでは登録しづらいですが、適切に匿名性が保たれたファンコミュニティであれば参加のハードルも低く、本音も語りやすくなります。さらに、プラットフォーム上では複数のニックネームを設定できるので、ユーザーはコミュニティによってニックネーム(アイデンティディ)を切り替えることで心理的安全性が保たれ、より安心して活動できます」
マスメディアは認知を、SNSは拡散を目的に取り組まれることが多いメディアだが、SNSでの拡散については狙い通り確実に実現することは難しいという。また、そのほとんどが企業から生活者への一方向の情報発信となるため、生活者と継続的に接点を持ったり、深い関係を醸成したりすることは難しく、SNSでの“ファン化”はなかなか起こらないのが現状だ。
「ファンコミュニティは、商品やブランド・企業のコアなファンからライトな関心を持った方まで多様な生活者が集まりコミュニケーションできる場です。適切なコミュニケーション設計と運営によって、生活者との継続的な対話を通して深い関係を醸成し、商品やブランド・企業のファンを育てることができます」
多様なユーザーの投稿や拍手(投稿へのリアクション)といったコミュニティでの活動がデータとして場に蓄積されることによって、ユーザーごとのデータ分析も可能となっている。そのため、ライトな関心層からファンに成長した参加者がどのような活動をしていたのかを、時系列を遡って把握することもできるという。
「キユーピー マヨネーズ ファンクラブ」では、キユーピー マヨネーズを活用したレシピ(マヨネーズマジック)を体験した投稿を通じて、ユーザーのファン度合が深化するステップを確認できたそうだ。
ライトな“ファン未満”な層からコアなファンまで入り混じりファン化の化学反応を起こす
ファンコミュニティでは、コアなファンとライトなファンが相互にコミュニケーションすることで場が活性化しファン化が促進されるため、ファン以外のユーザーの参加がカギとなる。また、ライトからコアへファン化したユーザーを分析することでファン化のメカニズムを解明する、という点でも、コアなファンとライトなファンが共存する場を設計することが重要だという。
「コアなファンであっても決まったユーザーばかりが活動する場になってしまうと、場が硬直してタコツボ化が起こります。すると、コミュニティが閑散とし、新たなユーザーが参加しにくい場になるばかりか、ファン化が困難になってしまいます」
そうした事態を回避するために、こんな工夫も。
「新規ユーザーが参加しやすいよう、コミュニティの全体テーマをブランドに限定せずに、ライフスタイルまで広げて誰でも語ることができるテーマにしたり、プレゼントやクーポンの抽選権と引き換えられるポイントを付与するなどの取り組みを行っています。はじめはポイントやキャンペーンを目的に参加したユーザーであっても、継続的に場に触れることで交流にやりがいを見出し、態度変容することが確認できています。
さらに言えば、コアなファンとライトなファンが相互にコミュニケーションすることでファン化するのは、ライト層だけではありません。コアなファンも、ライトなファンと交流することによって多様な価値観に触れ、自分自身の価値観や仲間の存在を自覚することで、ファン化がさらに促進されます」
多様なコンテンツに簡単にアクセスできるいま、ハマりきっていないモノに対して最初から多くの時間を割く意味はなかなか見出しづらい。だからこそ、プラットフォーム型ファンコミュニティの「初心者OK」な敷居の低さは、 “広く浅く”な消費スタイルのユーザーにも刺さり、無理なく段階を踏んでファン化促進につながっているのだろう。
文/清談社・松嶋 千春