4月から東京で働くために上京し、一人暮らしを開始――そんな若者を待ち受けているのは、地方では考えられないほどの小さな部屋。狭いキッチンでは料理をする気も起きず、コンビニの惣菜や冷凍食品で食事を済ませるという人も多いだろう。
そんな新社会人や大学生に向けて、全国農業協同組合連合会(JA全農)が「東京1Kごはん」というユニークなWEBサイトを開設。サイトの立ち上げを企画したJA全農の松下直嵩さんに、その背景や狙いを伺った。
食に興味を持ってもらうために。「東京1Kごはん」で自炊デビューをサポート
「東京1Kごはん」で紹介されている「ハサミでチョキチョキ豚キムチ」。
JA全農「東京1Kごはん」は2023年4月6日に公開された特設WEBサイト。この春から一人暮らしをはじめる若者に向けて狭い調理キッチンでも作れる自炊テクニック集を紹介している。現在は6つのレシピが公開されており、例えば調理器具はあるけれども、食材を切るスペースがないキッチンに悩む人に向けた「ハサミでチョキチョキ豚キムチ」など、試してみたいレシピが並ぶ。
全国農業協同組合連合会(JA全農)広報・調査部 広報SR課 松下直嵩さん
「東京1Kごはん」の企画を考えたのが、JA全農の松下さん。若者たちが食に興味を持つきっかけになれば、という想いでサイトを立ち上げた。キャッチーな「東京1Kごはん」というサイト名は、若者に食いついてもらうことが狙い。JA全農の堅いイメージを払拭する意味でも、若者受けするサイト名を採用した。
松下さん「JA全農は、全国の農家のみなさんが作った農畜産物を消費者にお届けするという使命があります。それらをどうしたら消費者に食べてもらえるか、ということを考えている過程で、まず食に興味を持ってもらうことが大事、という結論に至りました。私自身もそうでしたが、食に興味を持つのは、実家を離れて一人暮らしで初めて自分が料理をするタイミングの人が多いと思います。そこで、東京で一人暮らしをはじめる新社会人や大学生が食に興味を持つ入り口として、まずは簡単に料理ができて、ちゃんと食べてもらえるように『東京1Kごはん』を開設しました」
包丁いらずの「ちぎりトマトと一味のアラビアータ」。
松下さん自身も大学1年生の時に愛知から上京し、一人暮らしを開始。しかし料理の経験が全く無かったため、苦労したと振り返る。
松下さん「一人暮らしをしてから初めて自分でスーパーで買い物をして、料理をはじめました。最初はただ単に食材の安さで選んでいたのですが、料理の回数を重ねるごとに、食材の産地が気になって裏面を見はじめました。どこで作られてるのか、食べることの一歩先へと興味が湧いたのです。でも、面倒臭くなってしまったり、洗い物が嫌になってしまったり、料理を挫折した経験もあります。そういった若い方々も多いと思うので、簡単で洗い物が少ないレシピを提供しようと考えました」
自分で料理を作らなくとも、外食、冷凍食品、惣菜など、簡単に食事ができる今の時代。便利ではあるけれど、食に対する興味が薄れていることに危機感を持っているという。
松下さん「農家の方々が心を込めてつくったお米や野菜、お肉などを食べることが、農家の方々へのエールとなります。しかし、世の中の潮流や周りの人をみると、忙しさからあまり料理をしなくなり、加工品で済ませる若い夫婦が多くなり、食への興味が薄れていることを肌で感じています。そのため、まずは一人暮らしでの料理をきっかけに食に興味をもち、ゆくゆくは食材選びで産地や農業のことを少しでも考えてもらえるようになれば、と思っています」