2)Web会議中の動画から健康リスクを早期検出
続いては、AIを活用したオンラインコミュニケーション動画解析サービス「I’mbesideyou(アイムビサイドユー)」を提供する株式会社I’mbesideyouだ。2020年のコロナ禍の最中に創業した。
このサービスは、Web会議中の動画データから画像や音声などのデータを取得し、「マルチモーダルAI動画解析技術」と呼ばれる技術を用いて解析する。マルチモーダルとは、複数の入力情報をもとに処理を行うAIのこと。それの解析結果を専門家の診断データと照合することでAIエンジンを磨き上げる。これにより、例えばうつ病リスクの早期検出などが可能になる。
同社はI’mbesideyouを活用し、積極的に他社協業およびオープンイノベーションを行っている。過去にはバイオ・医薬品企業であるアストラルゼネカ株式会社と協業し、オンラインコミュニケーションを解析することで、MR(医薬情報担当者)のコーチングやティーチングスキル向上に役立てた。
浜松市との取り組みイメージ
2021年には静岡県浜松市の浜松市ファンドサポート事業に採択され、浜松市民のメンタルヘルス状況観察と子どものうつ予防などを動画解析で役立てる取り組みを行っている。
Zoomのオンラインコミュニケーション中に、一人一人の表情や音声の変化をデータとして蓄積。日々の生活に寄り添い、励ます存在を目指している。うつ病などの兆候がある場合は、ユーザーの承諾を得た上で、ライフログをデジタル問診票として提供し、医師によるヒアリング時間を短縮することで早期治療の実現も目指す。
インタビューに応じた代表取締役社長 神谷渉三氏は、浜松市との取り組みについて、次のように話す。
株式会社I’mbesideyou 代表取締役社長
神谷渉三氏
「コロナをきっかけにメンタルヘルス不調の問題が深刻化しましたが、社会にはメンタルの不調を恥ずかしいととらえる傾向があること、適切な対処を知っている専門家が少なく再発を防げないことなどからメンタルヘルス不調者の数は増え続けており、世界的な課題となっています。
この問題を解決するために、日々の様子をAIが観察してプライバシーを守りながら、最適な対話をAIと人の両方が行うことで心の健康を保ちつづけられる仕組みを、世界中の専門家と提携して開発しています。直近ではWeb3技術と組み合わせた最先端のプロトタイプも開発しました」
●オープンイノベーションへの思い
オープンイノベーションを積極的に利用しているのはどのような理由があるのか。
「大企業にはさまざまなノウハウや知見が蓄積されているため、共創することでそれらを深く理解し、真に役立つソリューションにプロダクトを磨き上げることができると考えるからです。同時に、大企業にとってのメリットでもあると思います」
今後の展望について、神谷氏は次のように結んだ。
「『社会全体を学校にする』。つまり、すべての人がリスペクトし合い、互いに学び合う社会を創ることが私たちのビジョンです。世界中の人たちがお互いの個性を認め合い、学び合う環境を自然に創り出せるようにプロダクトを磨き上げて、世界中の人々を提供していきたいと思います」
オープンイノベーションは、モノやサービスを生み出すスピードも加速してくれる。それは生活者にとってもプラスに働くだろう。東京都をはじめとした強力な社会からのバックアップは、今後ますます重要になっていくのではないだろうか。
【取材協力】
ヒューマンライフコード
I’mbesideyou
東京都プレスリリース
文/石原亜香利