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「賃上げ」はいいことばかりではない?人事制度や新卒採用の変化が若手社員に与える影響

2023.04.21

■連載/あるあるビジネス処方箋

賃上げが起きると、人件費が上がる。そうなると……?

ここ数回、賃上げと転職をテーマにしてきたが、今回がそのまとめとなる。マスメディアが報じる賃上げは総じて肯定的なものが多いが、本来は賃上げが行われる一方で着々と進む動きが少々、ネガティブなものであろうとも伝える必要があると私は思う。これらは、特に20~30代の会社員にとっても重要なことが多い。

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まず、心得るべきは大半の企業は今後も総額人件費の厳密な管理や削減の路線を絶対に変えないことだ。これは1991年にバブル経済が崩壊し、90年代後半に深刻な不況を迎えてから現在に至るまで多くの日本企業にとって重い課題だ。欧米の企業と比べると、日本の総額人件費は他のコストに比べて高いと言われる。

例えば、管理職は欧米が全社員の約1~2割であるに対し、日本のそれは3~4割。これでは、「競い合う前に負けている」と私がこの20数年で取材をしてきた人事の専門家の7割程が話す。だからこそ、大企業や中堅企業は90年代後半から中高年を対象とした管理職定年の設定、グループ会社への出向・転籍、他部署への人事異動、職種転換、リストラを繰り返している。だが、依然として管理職の数が適正数を超えている企業が少なくない。

今回のような賃上げをする場合、総額人件費はその分が増えることになる。おのずと、中高年のリストラ、管理職定年や出向・転籍、他部署への人事異動、職種転換の対象者が増えるはずだ。つまり、世代交代や人材の入れ替えを行っていると捉えるのが実態に近い。

これは、20~30代の一部の社員にとってはチャンスとも言える。特にこの5年ほどで大企業や中堅企業で目立つのは、70歳定年にすることを前提に、40~50代のいわゆる年功カーブをボーナスの額を下げたり、管理職定年の対象者を増やしたりして下げるようにしていることだ。60歳以降は、50代後半の頃の賃金の7割~半分にまで減らす。

一方で、20~30代の査定評価をシビアにして選抜の基準を上げる。30代前半から半ばでエリート層(同期の数パーセント以内)が課長に昇格する者が増えているのは、このためだ。40~50代になっても管理職になれない人は、今後ますます増えるだろう。管理職になったとしても、部下を持つことができないのかもしれない。部下がいる管理職は通常、「ライン」と呼ばれる。部下のいない管理職は「非ライン」となる。

このようにわけることで、総額人件費を厳密に管理しつつ、ラインの管理職で、その中からさらに上へ上がる役員候補の人材には、これまでよりも高い賃金を払うようになる。つまり、今回の賃上げは中高年の賃金を相対的に下げ、その分を将来有望な20~30代に回すものとも言える。選抜は、着実に進んでいるのだ。

賃上げ=人事制度や新卒採用のあり方が変化する

もう1つの動きも心得ておきたい。今後は総合職を減らし、専門職の人材を増やすようになる。これまでは新卒、中途問わず総合職の採用が多かったが、総額人件費を減らすがゆえに管理職のポストや人数が90年代から徐々に減っている。その代わりに専門職にしよう、という考えだ。顧客の求めるニーズが高度化、専門化していることも、大きな理由としてある。

賃上げは人事として力を入れるところを中高年から20~30代へシフトさせる、あるいは人事制度や新卒採用のあり方の変化を意味する。ここが、最大のポイントだ。

だが、ここであらためて考えたい。果たして高い賃金だけを求めて転職をしていいのだろうか、と私はよく思う。

1年前に取材した人事コンサルティング会社・トランストラクチャで人事コンサルタントとして活躍する久保博子さんが話していた次の言葉を紹介したい。これは、20代の優秀な男性が、エリートが集まる企業に転職をしたものの、組織になじめず、辞めざるを得なかったケースに答えたくだりの一部である。

「優秀な新卒採用者が多数を占め、定着率が高い企業は人材の質が同質で、血が濃い風土になる傾向があるのです。そのために、まだ経験が浅い20代の中途採用者の活躍は上司や組織長に高いレベルのマネジメント力がないと、活躍するのは難しい場合がありえます。

新たな人を採用し、生え抜きの社員と競争させるだけならば、競争環境マネジメントをしなければ、潰し合いや足の引っ張り合いになる可能性もあるでしょう。潰し合いや足の引っ張り合いの中でも上手くいく人はいるのでしょうが、そうではない人もいるのです。

20~30代の中途採用で特にこの類の問題が起きやすい職種は、企画職系です。日本企業の伝統であるメンバーシップ型の最たるものと言えます。企画職で採用時のすり合わせが曖昧な状態で入社すると、本人は何を企画すればいいのかと考えるところから取り組まざるを得ない。さらにはどのように成果、実績を残せばいいのか。どういうように立ち振る舞えばいいのか、といったところから遡り、考えるケースが多い。結果として、周囲に必要以上に同調することになっていきがちなのです。これでは、組織の活性化にはなりえない」

ここからは私の意見だが、1990年代後半以降、ITが浸透し、ITベンチャー企業が学生らの人気となった。それには様々な理由があるのだろうが、決して賃金が高いから人気があったわけではないはずだ。

例えば経験の浅い人にも大胆に権限を委譲したり、その失敗を組織として受け入れる風土も魅力だったのではないだろうか。そのことは、多様な価値や人材を認めることにもなる。それが、学生など外から見ると、楽しく、やりがいのある職場に映ったのかもしれない。本来、就職とはここが1つの原点になるべきではないのだろうか。企業側がここを見失い、賃上げをすればいいのだろうと安易に考えているならば、労働生産性が低いなどの問題は残り続ける。

読者諸氏には久保さんの言葉を1つの参考に、賃上げや転職についてぜひ考えてもらいたい。

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文/吉田典史

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