2023年1月8日、東京都は、大規模なスタートアップ支援拠点「Tokyo Innovation Base」の24年度の本格開業を目指すと発表。また、IT企業の集積する「渋谷ビットバレー」に続けと言わんばかりに五反田、築地、茅場町などバレー構想を掲げる街にIT系スタートアップが集まっている。
城東の下町エリアに目を向けてみると、「ものづくりのまち すみだ」を掲げる墨田区では、2023年1月に竣工した錦糸町のオフィスビル「ヒューリック錦糸町コラボツリー」に世界初・宇宙ゴミ回収技術の運用を目指すアストロスケールが2023年5月入居予定となっており、注目度が上昇中。区としてはものづくりでイノベーションを起こすことを目的とする「新ものづくり創出拠点」の整備を2013年より推し進め、10拠点を開設。製品開発やコミュニティ形成を促すなど、産業振興を通した賑わいのあるまちづくりを目指している。
深海探査艇や電気自動車プロジェクトにも携わった下町の町工場がスタートアップのものづくりを支援
墨田区の「新ものづくり創出拠点」で特に異彩を放っているのが、株式会社浜野製作所が運営するGarage Sumida(以降、ガレージスミダ)だ。同社は、金型製造にはじまり、プレス加工、精密板金加工を軸に事業を営んできた。時流に合わせて3DCADシステムを導入し設計機能を強化しつつ、産学官連携で電気自動車『HOKUSAI』の開発・製造、小型深海探査機『江戸っ子1号』のプロジェクトに参加するなど、ものづくりの幅を広げている。
「そうした取り組みを続けるなか、従来の図面ありきの仕事だけではなく、起業家や大学などと一緒にプロジェクトを進める機会が増え、共創のための新しい拠点の必要性を感じていました。株式会社オリィ研究所さんの考案した、遠隔でコミュニケーションを可能にする分身ロボット『OriHime』の開発支援を行っていた折、ちょうど墨田区の事業公募のタイミングとも重なり、ガレージスミダ開設にいたったわけです」(浜野製作所 取締役副社長 小林亮さん、以下同)
ガレージスミダではものづくりの相談・技術提供を行うほか、共用ラウンジ(上画像)では利用者・関係者のミーティングはじめ、定期的な交流イベントも開催。
通常、スタートアップ支援は自治体やコンサル会社が間に入って企業を斡旋するパターンが多いが、ガレージスミダの元にはスタートアップをはじめ、大企業の開発部門や研究機関などから直に問い合わせが舞い込む。ここでは、個々の課題に合わせてアイデア・構想段階から設計・プロトタイプ開発、量産化までを支援しているそうだ。
「大企業では、設計部門と生産部門の役割が分業化されており、拠点が分かれているため物理的にも隔たりがあります。かたやスタートアップやベンチャーは、試作品まではどうにか形にできたとしても、より本格的なものを作るための生産設備や技術技能に乏しいという問題を抱えています。我々は小さな会社ですが、設計のエンジニアもいれば、製造工場や職人も揃っているため、一気通貫の開発・試作が可能です。大手企業やベンチャーが持っていない部分をちょうど埋める形でハマったのではないでしょうか」
さらに、3Dプリンターやレーザーカッターといったデジタルツールも導入したことで、よりスピーディーに試作サイクルを回せるようになったという。
「デジタルツールでプロトタイプを短時間で作れるようになったため、機構・動作の確認が容易になりました。また、ガレージスミダは工場直結のため、その場で手を加えて試すことができるというのも大きな強みです。たとえば開発製品の修正が必要になった時に加工の職人がアドバイスをしたり、その場で加工をすることもあります」
当初からスタートアップ支援をメインに行うつもりではなかったが、結果としてものづくりの壁にぶち当たったスタートアップのかけこみ寺的存在となったそうだ。ではここで、ガレージスミダが目下支援中の個性的なプロジェクトを2つ紹介しよう。