「話しながら歩く」が難しいのは忍び寄る認知症のサイン?
中年期でも歩きながら会話をしたり考え事をしたりといったことが難しくなっている場合、それは認知症が忍び寄っていることのサインかもしれない。
二重課題(デュアルタスク)下で歩行する能力の低下は、65歳以上の高齢者での認知機能の低下や転倒と関連付けられているが、この能力は、実際には50代の半ばから低下し始めることが新たな研究で明らかにされた。
米Hinda and Arthur Marcus Institute for Aging ResearchのJunhong Zhou氏らによるこの研究の詳細は、「The Lancet Healthy Longevity」2023年3月号に掲載された。
Zhou氏らの研究は、バルセロナ脳健康イニシアチブ(Barcelona Brain Health Initiative;BBHI)の参加者のうち、本試験での解析時に歩行と認知機能の評価を完了した640人(男性53.4%、年齢42〜64歳)のデータを2次解析したもの。
歩行の評価は、任意のスピードで静かに45秒間歩くテストと、ランダムに選ばれた3桁の数字から3を引いた数字を答えてもらう課題をこなしながら45秒間任意のスピードで歩く(二重課題下の歩行)テストの2種類を実施。
これらのテストで重複歩時間(踵接地から同側の足の踵が再び接地するまでの時間)と重複歩時間変動性を測定し、二重課題コスト(DTC;通常の歩行から二重課題下での歩行への移行により増加した歩行アウトカムの率)を算出した。
また認知機能については、神経心理学的テストにより、包括的認知機能スコアと処理速度や作業記憶などの5つの領域の複合スコアを算出した。
その結果、通常の歩行テストにおいては、対象者の年齢に関係なくほぼ一定の結果が得られた。しかし、二重課題下での歩行テストでは、54歳を境に年齢が上がるにつれ、重複歩時間および重複歩時間変動性のDTCが増加していた。
また、54歳以降の人では、包括的認知機能の低下は重複歩時間および重複歩時間変動性のDTCの増加と関連していた。
こうした結果を受けてZhou氏は、「比較的健康な本研究の対象者においてでさえ、引き算をしながらの歩行となると、60代半ばの人で現れ始めるような重要な変化が、かすかではあるが認められた」と述べる。
また研究グループは、「この結果から、認知機能のスクリーニング検査の実施時期を早めるべきだとする意見が出てくる可能性がある」と述べている。
Zhou氏は、「二重課題下での歩行能力は脳の健康の指標となる可能性がある。認知機能をターゲットにした介入を行うことで、二重課題下での歩行能力の維持や向上がもたらされ、後年の認知症の発症リスクを低減できるかもしれない」と示唆している。
米アルツハイマー協会のClaire Sexton氏は「加齢に伴い生じる記憶力や反応速度などの認知機能の変化に気付くのは普通のことだが、二重課題下でのパフォーマンスが低下し始める年齢については、これまで特定されていなかった」と話す。
そして、「認知機能を維持するために二重課題訓練を行うことで得られる潜在的なベネフィットについては、目下、研究が活発に進められている。この研究結果は、そうした研究において焦点を当てるべき年齢枠を特定するのに役立つだろう」と述べている。(HealthDay News 2023年3月21日)
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(参考情報)
Abstract/Full Text
https://www.thelancet.com/journals/lanhl/article/PIIS2666-7568(23)00009-0/fulltext
Press Release
https://hms.harvard.edu/news/cognitive-changes-affect-ability-walk-talk-same-time
構成/DIME編集部