労働基準法施行規則の改正により、2023年4月1日からデジタルマネーによる給与の支払い(デジタル払い)が解禁となります。
しかし、制度上は解禁になっても、実際にデジタルマネーで給与を受け取れるようになるのは、まだ数か月程度は先です。
また、デジタルマネーで給与を受け取れるかどうかは会社によって異なり、受け取りに利用できる決済サービスも限定される可能性がある点にご注意ください。
今回はデジタルマネーによる給与の支払いについて、法令改正による新制度のポイントをまとめました。
1. 給与のデジタル払いのメリット
給与のデジタル払いには、会社側・従業員側のそれぞれにとって、以下のメリットがあると考えられます。
<会社側のメリット>
・銀行振込よりも送金手数料が安くなる可能性があります。
・銀行口座を持たない人(外国人労働者など)に対しても、現金を準備せずに給与を支払うことができ、セキュリティの向上や事務負担の軽減に繋がります。
・従業員の生活利便性を向上させることで、会社に対する好感度のアップや、仕事に対するモチベーションの上昇に繋がります。
<従業員側のメリット>
・よく使う決済サービスへの資金移動(チャージなど)の手間が省けます。
・銀行口座を持たない場合でも、現金以外の方法で給与を受け取ることができるので、安全面でプラスに働きます。
2. 給与のデジタル払いの導入手続き
会社が給与のデジタル払いを導入する際には、以下の手続きを行う必要があります。
①決済サービスを選定する
厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者(=指定資金移動業者)が提供する決済サービスの中から、給与のデジタル払いに用いるものを選定します。
②労使協定を締結する
厚生労働省の通達により、給与のデジタル払いを導入する際には、以下の事項を定めた労使協定の締結が要請されています。
・対象となる労働者の範囲
・対象となる給与の範囲、金額
・対象となる決済サービス(指定資金移動業者)の範囲
・デジタル払いの実施開始時期
③従業員に対する説明を行う
指定資金移動業者が講じている措置(口座残高の上限・残高保証・払い戻しルールなど)について、従業員に対して事前に説明しなければなりません。
④従業員の個別同意を得る
給与のデジタル払いを行うことについて、個々の従業員から同意を得る必要があります。同意書の様式例は、厚生労働省ウェブサイトで公表されています。
参考:資金移動業者口座への賃金支払に関する同意書(参考例)|厚生労働省
4. デジタル払い用口座の残高上限は100万円
給与のデジタル払いに用いる決済サービスの口座は、残高上限が100万円とされています。100万円に達すると、その決済サービスの口座で給与を受け取ることはできません。
従業員としては、あくまでも給与の一部(数万円程度)のみをデジタル払いで受け取り、定期的に使用または出金する形で活用するのがよいでしょう。
5. 受け取ったデジタルマネーは出金可能
給与として受け取ったデジタルマネーの残高は、ATM等を通じて、通貨による出金ができる仕組みが整備される予定です。
出金手数料は、少なくとも毎月1回は無料になりますが、月2回目以降の取り扱いは決済サービスによって異なります。
6. 決済サービス業者が倒産しても、残高は保証される
決済サービスを提供する指定資金移動業者が倒産した場合でも、給与として受け取ったデジタルマネーの残高は全額保証されます。
ただし、どのような保証体制が構築されるかは現時点で未定なので、今後の実務動向を中止すべきでしょう。
7. 実際の開始時期は未定|2023年後半以降の見込み
2023年4月1日から、法制度上は給与のデジタル払いが解禁されます。
しかし、デジタル払いに利用できる決済サービスは、厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者(=指定資金移動業者)が提供するものに限られています。
指定資金移動業者の申請を行うことができるのは2023年4月1日以降で、審査には数か月程度を要します。したがって、実際に給与のデジタル払いが開始されるのは、2023年後半以降となる見込みです。
取材・文/阿部由羅(弁護士)
ゆら総合法律事務所・代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。ベンチャー企業のサポート・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。東京大学法学部卒業・東京大学法科大学院修了。趣味はオセロ(全国大会優勝経験あり)、囲碁、将棋。
https://abeyura.com/
https://twitter.com/abeyuralaw